[論説]外国人実習制度見直し 「選ばれる国」になろう
技能実習制度は1993年、報酬を支払って人材を育てる国際貢献が目的で始まった。だが、実際は安価な労働力で人手不足を補う側面もあり、さまざまな問題を招いた。
最たる例が実習生の失踪だ。法務省によると、2022年の失踪者は最悪だった18年とほぼ同じ9000人を超えた。うちベトナム国籍が7割近くを占め、中国、カンボジア、ミャンマーなどが続いた。背景には、別の企業に移る「転籍」を原則認めないことに加え、賃金不払いやハラスメントなど、受け入れ側の人権、順法意識の欠如がある。
現制度は、国連人権条約機関から「人身売買」と非難され、アジア諸国への差別とまで言われた。米国政府も人身売買に関する報告書で再三、日本を名指しし、「日本国籍を持つ者と同等の人権を保障する」よう求めていた。
このため政府は昨年11月、有識者会議を設置し、見直しに向けた議論を行ってきた。今年5月の中間報告では、現行の制度を廃止し「国際的な理解を得られる制度を目指す」と提起。10月の試案では、同じ職場に1年超勤務し、日本語能力試験に合格するとの要件を満たせば、転籍制限を緩和するという人権配慮の姿勢を打ち出した。
ただ、課題も残る。農業現場では、作業を習得しても賃金などの条件が良い都市部に1年ほどで人材が流出してしまうのではないか、と懸念の声が相次いでいる。同じ職場で働き続けることへのメリット措置など、不公平にならない仕組みづくりを求めたい。
日本弁護士連合会は、転籍を可能とした点を評価しつつ、日本語能力試験も要件に課したことについて「受験自体が転籍の意思があると推測され、妨害される恐れがある」と指摘。実習生が自国の送り出し機関に支払う高額な手数料についても問題視する。
何より大切なのは、双方の違いを理解した上で、同じ人間として血の通った交流を重ねることだ。長野県の60代農家は、送り出す国に自主的に出向いて、実習希望者と面談して契約内容も公開している。こうした取り組みによって実習生から慕われ、志願者が相次いでいるという。「外国の人から選ばれる日本でなければ、食料自給はおぼつかない」と語る。規制や監視を強めるだけでなく、働く人を大切にする取り組みを各地に広げることも大切だ。