[論説]4月に迫る物流問題 農業の底上げも必要だ
物流24年問題は、運転手の長時間労働と低賃金の改善が発端。輸送の仕組みを効率化し、運転手の待遇を改善し、担い手確保を目指すものだ。
政府は2月、30年度までの物流革新の中長期計画を公表し、24年度中に運転手の10%賃上げを目指す方針を打ち出した。運賃交渉の目安となる標準的運賃の8%引き上げや、法改正などによる荷役作業料の適正化で賃金がアップするという算段だ。
国交省は、物流界の賃上げ方針を示すと同時に、公共工事の積算に用いる労務単価の引き上げも公表。平均で前年度比5・9%引き上げた。中でも、一般運転手の労務単価は過去10年で最大の上昇幅となる7・2%の引き上げとなった。運輸や建設業は中小企業が多く、労働環境が悪いとされる業種で、政府主導による賃上げが進む。
農業にとって物流業界は、農産物を消費地に届ける欠かせないパートナーであり、労働環境や働き手の確保に持続性があることは重要だ。荷役作業の時間短縮に向け、かんきつ産地のJA熊本市では、パレット導入で積み込み時間を手積み時の半分以下に短縮できたという。力が必要な手積みからフォークリフトなど機械操作に転換できれば、担い手の幅は広がり、子育て中の女性なども働きやすくなる。政府の設備投資の支援を活用し、物流の労働環境改善を進めたい。
一方で、輸送費の上昇分や荷役作業を農家やJAが引き受ければ、産地側に一気にしわ寄せがいく。既に農業は資材高で経営が非常に苦しい状況にある。農家の所得や労働環境が悪化しないよう、農業界全体の底上げを求めたい。
農水省の調べでは、肥料など資材の価格指数はここ3年、高止まりが続く一方、農産物価格指数はほぼ横ばいで、ギャップは大きい。適正な価格形成へ、農水省は5年に1度行う食品流通段階別の価格形成調査を実施し、23年度補正予算では輸送費も含めたコスト構造も調査するというが、調査だけでなく農業経営を持続できる農産物価格の実現こそ急務だ。
少子高齢化が進み、どの業界も担い手不足が深刻だ。農産物の供給網全体を見直し、地産地消や「国消国産」にも力を入れたい。資材高騰に加えて物流費上昇で、農業だけにしわ寄せがいく状況は、避けなければならない。