[論説]ジャンボタニシ問題 除草目的で放飼は厳禁
ジャンボタニシは南米原産の淡水巻き貝の一種で、1981年に食用のために台湾から導入し、その後、野生化した。九州に被害が集中していたが、近年では中国や近畿、東海、関東でも増えている。今後1カ月の病害虫発生予報によると、地域によってはジャンボタニシの越冬数が増える見込みで、特に今冬の気温が高かった地域では一層の警戒が必要となる。
水稲の苗が、ある程度の大きさになれば、ジャンボタニシは他の雑草を食べる。定着してしまった地域では、水田雑草の除草に利用する場合があるという。今回問題となったネット上の投稿も、除草目的の放飼とみられるが、ジャンボタニシは繁殖力が強く、自力であぜを乗り越えてしまうため、農業への被害は広範に及ぶ。一度侵入を許せば根絶させるのは難しく、放飼は絶対にやめよう。
被害が出ている産地では、苗の移植前に取水口や排水口に網を設置する他、秋には殺貝効果のある石灰窒素を散布したり、冬に耕うんして土中の越冬個体を砕いたりして生息数を減らそうと懸命だ。それにもかかわらず、一部の人がジャンボタニシを持ち込んでしまっては、こうした地道な努力が水の泡となる。
坂本哲志農相は、未発生の地域や被害防止に取り組む地域での放飼をやめるよう呼びかける。農水省もX(旧ツイッター)で注意を喚起する。
一方で、厄介なジャンボタニシを餌として有効活用しようという試みもある。愛媛県養鶏研究所は、採卵鶏の飼料として利用できることを実証した。加熱・乾燥処理の後、粉砕して給餌すれば、たんぱく質やカルシウムを補える。試験では、ひな鶏の成長に悪影響がなく、採卵鶏の嗜好(しこう)性も既存の飼料と遜色なかった。今後は、卵の食味試験などに取り組むという。輸入飼料の価格高騰が続く中で、ピンチをチャンスに変える成果に期待したい。
環境負荷を低減する「みどりの食料システム戦略」の推進へ、輸入に依存する化学肥料や農薬を低減し、環境に配慮した農業を目指す動きが広がっている。除草剤を減らそうと、身近な生き物たちの力を借りる農法は有効な手段だ。しかし、有害な外来生物を放飼すれば地域の生態系を乱し、農業を破壊することにつながる。自分本位ではなく全体最適を考え、互いに納得できる取り組みを進めよう。