[論説]基本法と有機農業 環境調和の理念明確に
食料・農業・農村基本法は農政の理念や基本方針を示し、それに沿った措置を講じるよう定める。農水省は2021年、「みどりの食料システム戦略」を策定し、環境負荷を減らした持続可能な農業への転換を打ち出した。
円安が進み、生産資材価格の高騰が続く中、肥料や飼料などの輸入依存から脱却し、土づくりを基本とした環境調和型農業の推進は不可欠となる。みどり戦略では、50年までに有機農業の面積を25%、100万ヘクタールに拡大する目標を打ち出す。
JA全中も、環境調和型農業の推進に向けた取り組み方針を決め、全JAで展開することを打ち出した。
こうした機運を高めていくためにも、基本法改正案の条文に有機農業の推進を明記すべきだった。衆院では野党議員から同様の指摘が相次いだが、坂本哲志農相は「環境への負荷の低減の取り組みとして、化学農薬、肥料の使用削減など幅広い取り組みを促進していくこととしており、その中に有機農業が当然含まれている」と述べるにとどまった。衆院農水委員会では、法的な効力のない付帯決議に「有機農業の推進」などを盛り込むこととし、共産党を除く各党の賛成多数によって採択された。
海外では、農業基本法に有機農業を盛り込んでいる。フランスは1960年の基本法以来、生産性を追求する農業政策を推進した結果、欧州最大の農業国となった。だが、化学農薬や化学肥料の大量使用で環境への負荷が増し、その改善策として有機農業への転換が提唱され、80年には同国の農業基本法に有機農業の推進が明記された。
韓国も2008年、農畜産物の貿易自由化に伴い、輸入に対抗しようと、日本の食料・農業・農村基本法に相当する「農業・農村及び食品産業基本法」を改正し、初めて「親環境農業(有機農業)の推進」を盛り込んだ。具体的には「国と自治体が環境と調和のとれた生産基盤、生産技術の開発などに必要な政策を構築する」とした。
有機農業は、環境への負荷を減らし、持続可能な生産を目指す取り組みで、時代の潮流だ。参院では、こうした有機農業の理念が、改正案を通して明確に読み取れるよう審議を尽くし、理念を具現化する基本計画へとつなげるべきだ。