[論説]過去最多の空き家数 発想の転換で移住促せ
総務省が4月30日に公表した2023年住宅・土地統計調査の速報値は衝撃的だった。全国の空き家の割合は、沖縄が本土に復帰した翌1973年の調査以降、過去最多の「7戸に1戸」という結果となった。特に空き家が多いのが山梨、長野、和歌山、徳島、高知、鹿児島の6県で5戸に1戸が空き家となり、西日本ほど多い「西高東低」の構図となった。
ただ、東京を含む東日本でも状況は同じで、北海道や東北、北陸を中心に前回(18年)の調査と比べて空き家が増えた。少子高齢化が進む中で、空き家の増加は国家的な課題として受け止めるべきだ。
解消には「逆転の発想」が求められる。日本農業新聞は、空き家を貸したい人が、借りたい人を募るというこれまでの常識を覆し、借りたい人が貸したい人を探す「さかさま不動産」を取り上げた。誰もが当たり前だと思っていた不動産取引を逆手に取った画期的なサービスと言える。
考案したのは、三重県桑名市のベンチャー企業。空き家を見ず知らずの人に貸すことを「リスク」と捉える所有者が多いことを知り、貸す人が借りる人を事前に知ることによって「空き家はもっと流通する」と考えた。仕組みはこうだ。家を借りたい人が同社のサイトに名前や顔写真、自己紹介の他、探している地域や使用目的を書き込む。貸したい人はサイトを見て、自分が貸したい人を見つける。このサービスを20年から始めたところ、東日本を中心に成約が続き、10都府県の27戸の空き家がカフェやゲストハウス、書店などに生まれ変わった。
空き家の増加に悩む自治体も追随し、福井県大野市や石川県小松市が公式ホームページに空き家を探す人の情報を掲載。北海道小清水町も「さかさまバンク」と名付け、同様のサービスを始めた。変革は時として“よそ者”によって生み出される。こうした仕組みをもっと横展開したい。
政府は、空き家などの解消へ昨年4月に国庫帰属制度、今年4月には相続登記の義務化と相次いで対策を打ち出したが、求められるのは、多様な価値観を持つ民間との連携だ。人口戦略会議から「消滅可能性都市」と名指しされ、不安を抱く自治体が多い中、地域おこし協力隊や地方への移住希望者は過去最多を更新する。このミスマッチを埋めるには発想の転換が必要だ。