[論説]水田の畑地化 実態踏まえた支援策を
国が示した水田活用の直接支払い交付金(水活)の見直しによると、交付金の対象となるには5年に1度の水張りが条件となる。26年までに1回も水張りをしない水田は、その対象から外される。代わりに畑地化を選択すれば、国から10アール当たり1回限り14万円の畑地化支援と、1年で同2万円を5年間継続で支払う定着促進支援を受けられる畑地化促進策がある。
転作畑となっている水田をどうするか、農家は選択が迫られている。中には、水をためられなくなっている田もある。個人の農家だけでなく地域農業の将来に関わり、栽培する品目の収益性を見極める必要もあり、選択に苦慮している地域は多い。現場がどちらの道を選んだとしても、今後も農業を続けていける万全な政策支援が必要だ。
北海道は、23年度の補正予算までに面積換算で3万2000ヘクタールの畑地化を決めた。畑作物を作付けする水田(約7万ヘクタール)の半分近くに相当する。日本農業新聞が行った道内のJAを対象にしたアンケートによると、生産性向上に期待を抱く産地もある一方、単価の安いソバなどを念頭に「『水活』抜きにして収支バランスがとれるのか」と懸念する声もあった。
ソバ、麦類、畑作物、野菜、花き、牧草――。道内はもとより全国の転作田では、地域や気候、歴史に応じさまざまな農作物が作られてきた。当然、それを求める実需者はたくさんいる。全国一律で政策を進めるのではなく、多様な地域農業を維持するためには、きめ細やかな手当てが必要だ。アンケートでは「農業者の苦悩は個々の状況や地域によって異なる。支援が必要な作物や方法は多岐にわたる」との声もあった。同感だ。
水張りを行うことで地域農業の新しい展開につなげようと動く産地もある。北海道空知地域は水稲、大豆、小麦に加え、国産の濃厚飼料となる子実用トウモロコシを組み合わせたブロックローテーションを考案、飼料の輸入依存から脱却しようと担い手を中心に拡大する動きがある。
一方、交付金の見直しによって高齢化が進む中山間地など条件不利地域の農業をどう支えていくか、課題も浮き彫りになった。自給率が低迷する中、政策支援の網からこぼれる地域を出してはならない。現場の声に耳を傾け、きめ細やかな支援を求めたい。