[論説]困窮する農業経営 所得確保へ法制化早く
農水省がまとめた、直近3月の農業物価指数(2020年=100)によると、生産資材は120と依然高い水準にある。一方、農産物は113・4と、資材価格の上昇幅に追い付いていない。
長引く資材高騰は農家の経営を圧迫し、廃業に追い込んでいる。東京商工リサーチの調査によると、農業事業者の23年度の倒産件数(負債額1000万円以上が対象)は82と過去最多となった。
この苦境をいかに乗り越えるか。生産現場が強く求めているのが、生産コストを反映した適正な価格形成だ。日本農業新聞の直近の農政モニター調査でも、「適正な価格形成」を求める声が最多の7割を占めた。政府による法整備への期待がいかに高いかを物語る。JAグループの政策提案でも、適正な価格形成に向けた仕組みの法制化を柱として位置付けた。
ただ、法制化の議論は思うように進んでいない。23日の参院農水委でも、価格形成の仕組みを巡って農水省は「必ずしも再生産できるかどうかというところは保証するものではない」と説明。「消費減少を招く」と懸念する小売業者などに配慮し、関係者全体の納得が得られる制度設計を検討している。
消費者の節約志向が高まる中、農産物の値上げに対して理解を得るのは容易なことではない。だが、食料・農業・農村基本法見直しの目的となった食料安全保障を強化するには、生産基盤となる農地を守り、担い手を確保することが不可欠だ。直接支払いの拡充や価格転嫁がなければ、農家は赤字経営を余儀なくされ、基本法が目指す持続可能な発展に到底、結び付かない。
自民党の森山裕総務会長は10日のJA政策推進大会で、「次期基本計画を実施する際に法律に基づく制度が動き出すべきだ」と明言した。次期基本計画は来年3月ごろに定める予定で、法制化への意欲を示した。農業所得を確保できる仕組みを強く求めたい。
農水省は今夏をめどに米や野菜、果実などの幅広い品目を対象にコスト調査を実施する。生産資材費や輸送費などを把握し、適正な価格形成に生かす狙いがある。
基本法を巡る国会審議は大詰めを迎えた。野党からは戸別所得補償の復活や直接支払いの強化を求める声が上がる。農業・農村をどう支えるか、徹底議論をしてほしい。