[論説]農業の職場環境改善 働きやすさ トイレから
農業現場の「トイレ問題」は女性にとっては極めて重要だ。そもそも近くにトイレがない、あっても男女別ではない、汚い――などで我慢してしまいがち。加えて女性には生理があり、心身のストレスは計り知れない。人材確保のためにも環境整備は急務だ。
こうした中、若い世代を中心に「働きやすい環境づくり」に向けた動きも出てきた。新潟市北区の農事組合法人濁川生産組合代表の田村雄太郎さん(39)は「毎年、一つは導入したい」と職場環境の改善を進めている。これまでに男女別の更衣室やトイレの増設、シャワー室の設置など、福利厚生と併せて充実させてきた。トマト1・6ヘクタール、水稲83ヘクタールを経営する同法人の従業員は23人。多くが20代で、女性は7人いる。注目したいのは、田村さんの改善が「従業員との会話の中で出た要望を取り入れ、反映している」ことだ。父から代表を引き継いだ2016年ごろから若い世代の採用を増やしており、環境整備は「長く働いてもらいたい」という意思の表れでもある。特に作業後に汗を流せるシャワー室は、「終業後にそのまま出掛けられる」と従業員から好評という。
同生産組合は19年度、全国優良経営体表彰(農水省など)の「働き方改革」部門で農水大臣賞を受賞。「男社会とされる農業の世界で、若い人や女性が働きやすい環境をつくっていきたい」と田村さん。人材は人財だ。環境整備を進め、働く人を大切にする経営が求められている。
近年、スマホのアプリを活用した、農業で働きたい人と生産現場をつなぐサービスが広がっている。働く側にとって「トイレや休憩スペースの完備が、職場を選ぶ重要な選択肢になっている」という。
埼玉県は、新規で「農業法人等による就農支援の環境整備事業」を打ち出した。女性が働きやすい環境の実現へトイレや休憩室、更衣室などの設置費用を助成する。
少子高齢化が進む中、農業で働く人材を求めているのは全国共通。遠回りに感じられるかもしれないが、埼玉県のような支援こそ重要だ。生産資材の高騰が続き、農業経営は苦しい。自治体やJAなど地域を挙げた支援策として「職場の環境整備」を進めたい。気持ち良くトイレを使えて終業時はシャワー室もある――。そんな環境があれば、農を目指す人は増えるだろう。