[論説]23年度農業白書 所得確保へ道筋を示せ
白書は、各省庁が編集する政府刊行物で、政策の現状や対策などを周知することを目的とした国民への報告書だ。
23年度の農業白書は、基本法の検証・見直しについて特集し、食料安全保障の確保、環境と調和のとれた食料システムの確立、農業の持続的発展、農村の振興、災害からの復旧・復興など――で構成する。環境負荷を減らす「みどりの食料システム戦略」の実現に向け、環境との調和について新たに章立てした。
特集で示すように、気候変動などの影響で、輸入穀物や食品などが高騰する中で「国民一人一人の食料安全保障を確立」することが問われている。輸入依存から脱却し、38%(カロリーベース)しかない食料自給率をどう高めていくかが一層、重要となる。
だが、その書きぶりが弱い。水田をはじめ農地をどう維持し、担い手を確保するか。政府として具体的な道筋を描くことが、食料安保を確保する上で欠かせない礎となる。
コストの転嫁が難しい農産物価格については、「合理的な価格の形成に向けた対応の推進」という文言が盛り込まれた。これまでは「適正な」価格形成といっていたが、なぜ「合理的」となったのか。同省は「法律に合う表現に改めた」としているが、誰にとって「合理的な価格」なのか、問いたい。
強調したいのは、農家が再び生産できる取引価格でなければ、農業の持続的発展は見込めないという点だ。所得確保を前提とした農業政策の拡充を強く求めたい。
政府は、環太平洋連携協定(TPP)をはじめ米国などとの自由貿易協定(FTA)を相次いで締結し、自動車などと引き換えに、農産物市場を開放してきた。その結果、国内の生産基盤は弱体化し、自給率は低迷し、担い手は減り続ける。スーパーなどからは不当な安値を求められ、離農も相次いでいる。足元の農業、農村をもっと大事にする国づくりを求めたい。
JA宮崎中央会の栗原俊朗会長は、JA政策推進大会で「31%」という数字を上げ、23年の宮崎県の畜産農家の所得水準が、20年を100として7割も落ち込んでいると訴えた。22年の主業経営体1経営体当たりの農業所得は363万円と前年と比べて71万円も減った。農業所得の確保は、極めて重要であることを政府は認識してほしい。