[論説]巨大地震注意1カ月 地方分散で国家を守れ
南海トラフ地震は、近年の巨大地震とは想定される被害規模が格段に違い、「国の存亡に関わる」と言っても過言ではない。
初の大都市直下型となった阪神・淡路大震災(1995年1月)、戦後最悪の犠牲者を出した東日本大震災(2011年3月)、同一地域で短時間に2度の大地震が起きた熊本地震(16年4月)、最大4メートルの隆起で港が壊滅した能登半島地震(今年1月)は、いずれも甚大な被害を伴った。だが支援物資の輸送、復旧・復興を進める拠点として東京や大阪などが機能していた。
一方、南海トラフ地震の想定震源域は、静岡・駿河湾沖から宮崎・日向灘沖までと広大だ。8月8日の日向灘地震を受けた今回の臨時情報が示したように、津波・防災対策の指定地域は29都府県に及び、全人口の53%が住む東京、名古屋、大阪の三大都市圏も被災地となる。政治・経済の中枢が機能不全に陥れば、国による救援物資のプッシュ型輸送は望めない。助かる命も助からず、食料が行き渡らず餓死や疫病がまん延し、略奪行為も起こり得る。こうした最悪の事態は絶対に回避しなければならない。
南海トラフ地震は記録が残る7世紀以降、100~150年間隔で起きている。近年では幕末の安政東海地震(1854年11月)と、32時間後に起きた安政南海地震がある。いずれも大津波が押し寄せ、東、西日本の太平洋側で5000人以上が亡くなった。その90年後には、太平洋戦争末期の昭和東南海地震(1944年12月)、敗戦を挟んで2年後の昭和南海地震(46年12月)が発生し、再び太平洋側の地域一帯が壊滅した。
ただ、当時は人口が今の6割で、地方に分散して居住し、食料生産基盤が守られるなどリスクは軽減されていた。
ところが、今はどうか。規制緩和の名の下に経済効率を優先するあまり、人や物が東京に一極集中する国家的リスクを、政府はどう考えるのか。国家機能の地方分散を真剣に検討する必要がある。
地方分散政策を提案する京都大学の藤井聡教授は、「高速道路と新幹線の整備計画を早急に進め、地方の主要産業である農業を振興すれば、地方分散は簡単に実現できる」と強調、政府の姿勢を問う。巨大地震は必ず来る。個人の備えと共に、災害に強い国づくりは待ったなしだ。