[論説]1万戸割れショック 酪農支える政策今こそ
中央酪農会議が2日に発表した2024年10月の全国の受託農家戸数は9960戸と、初めて1万戸を下回った。ロシアのウクライナ侵攻や円安などで、過去最高の水準で高止まりしている輸入飼料などのコスト増が要因だ。
加えてコロナ禍で牛肉消費が減ったことで、副産物である雄の子牛価格が、ここ数年低迷。牛乳・乳製品の消費減で生産抑制が行われ、酪農家は収入減を余儀なくされた。日本の酪農史上最悪の「三重苦」であり、これが1万戸割れにつながった。
日本の酪農は、牧草など飼料作物が一定に作れる北海道と、購入飼料が多い都府県に分けられる。都府県の方が輸入飼料高騰が経営に及ぼす影響は大きく、戸数減のペースは早かった。多くの酪農家は「搾るほど赤字」と悲鳴を上げ、離農や酪農から肉牛などへ転換した。政府は、飼料代の補填(ほてん)など経営を支援する事業を展開したが、離農を防ぎきれなかった。1万戸割れは、国内の酪農基盤がいかにもろくなっているかを物語っている。
酪農王国・北海道も決して安泰ではない。23年に5000戸を割って以来、戸数は減り続けている。中には「貯金が減らないうちに」と、健全経営の酪農家が引退する例もあった。特に飼料高騰が直撃したのは大規模経営の酪農家だ。牛を増頭した分、農地を増やせるわけではないため、輸入飼料の購入が増え、経営を圧迫。大規模設備の費用返済もあり、存続の危機に陥っている。酪農家の戸数減は、地域経済の疲弊につながり、地方は衰退する。
こうした危機に、産地はどう対応していくべきか。一つが多様な担い手の確保だ。良質な自給飼料を作り、影響を抑えた家族経営の酪農家もいる。生乳の安定供給に大規模酪農は重要だが、規模にかかわらず地域に多様な経営体が存在することが、地域の維持につながる。
22年以降、乳価引き上げで酪農家の収入は確かに増えた。だが飼料価格は高止まりし経営は依然として苦しい。生産コストを適正に価格に転嫁できる仕組みをどう構築するか、議論は半ばだ。今後10年の畜産・酪農政策の指針「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(酪肉近)見直しも進む。
日本で牛飼いを続けられる恒久的な政策を求めたい。