[論説]お茶ツーリズム 産地の物語発信しよう
「茶業およびお茶の文化の振興に関する基本方針」改定を進める農水省は、①有機・輸出への対応②生産基盤の維持③消費の拡大――などを柱とし、3月末までに策定する。
第一に求めたいのは、適正な価格形成の実現だ。2023年産煎茶(荒茶)価格は1キロ1223円と、15年前より358円安い。茶は経営に占める肥料代や燃料代の比重が大きいだけに、資材高騰の長期化は経営に大きな打撃を与える。同省は、農家所得を確保する方策を示すべきだ。
適正な価格転嫁と消費拡大の実現に向け、産地自らも国民理解の醸成に取り組む必要がある。産地の空気や環境を丸ごと商品にする、お茶ツーリズムを提案したい。
昨年、基本方針改定に向けて同省が開いた会合では、識者から「消費者が茶を飲みたくなる場づくりや、体験などのコト消費の取り組みが重要」「茶産地への訪問やワークショップに継続して参加してもらうべきだ」といった意見が相次いだ。茶を通してその先にある物語をもっと発信したらどうだろう。
お茶ツーリズムを始めている産地もある。佐賀県では、嬉野茶と温泉、肥前吉田焼の三つの要素を組み合わせたツアーを企画する。静岡県中部にある、するが企画観光局は茶畑テラスの設置を推進している。訪問者は茶園で栽培されたおいしいお茶を飲みながら、眼下に広がる絶景の茶畑や山並みを楽しめる。ヨガや読書、昼寝、女子会などといった使い方もあるという。京都府和束町では、茶畑などを巡る体験型観光がインバウンド(訪日外国人)に人気だ。
実施には課題もある。茶畑テラスで日本茶を提供するには、荒茶の仕上げ加工をする機械が必要となり、新たな費用負担が伴う。最も作業が集中する4~6月の新茶の時期に、観光客を受け入れるのも難しい。加えて、標準的な体験メニューとツアー料金の設定、観光ガイドの育成といった産地の努力だけでは解決できない課題もある。行政などの支援も必要だ。
茶産地では、集落に共同茶工場を造り、個々の農家の費用負担を抑えてきた経緯がある。集落には豊富な茶の知識や経験を持った高齢者がいる。シルバー観光ガイドとして日本茶の魅力発信へ活躍してほしい。農家1戸で解決できない課題でも、集落や地域ぐるみで乗り越えたい。