[論説]価格形成の検討本格化 幅広い品目を対象にせよ
農水省は6日、法案の概要を自民党に示した。それによると、新法ではなく、既存の食品等流通法と卸売市場法を改正する。2法の改正案を3月上旬にも今通常国会に提出し、来年春の施行を目指す。
小売りなど買い手に、コストを考慮した取引を求める売り手から協議を求められた場合、誠実に応じるなどの努力義務を課す。取引の目安となる「コスト指標」も設ける。
注目したいのは、国の役割も定めた点だ。買い手が協議に応じないなど対応が不十分な場合、指導・助言を行う。改善されなければ国が立ち入り検査を行い、事業者名を公表する。実効性ある仕組みにするには、国の関与が不可欠なだけに歓迎したい。
肝心なのは、これからだ。法制化の対象品目が定まっていない。同省は米、野菜、飲用牛乳、豆腐・納豆の4品目について、それぞれ有識者会議を設け、対象にすべきか検討を重ねてきた。
買い手にとってコストを考慮した価格形成は、販売価格上昇を招き買い控えにつながるとして、対象品目絞り込みを求める意見も根強い。農産物価格が上昇傾向にある中、こうした懸念もあるだろう。
ただ、この状態を放置していれば農業経営は成り立たなくなる。同省の農業物価指数(20年=100)によると、24年の農産物の指数は115・9と過去最高。天候不順に伴う生産量減少などを背景に、米が107・3、野菜127・8と軒並み上がった。一方で生産資材の指数は120・7と、上昇幅は農産物を上回る。高値の反動で農産物価格は今後、値崩れする恐れもあり、米や野菜を含めた幅広い品目での法制化が必要だ。
コスト指標も焦点となる。平地と中山間地域では、生産コストは異なる。中山間地域の22年産米の生産費(60キロ)は1万8000円台と、集積が進む平地の生産費(平均1万3000円台)を上回る。地域の実情を踏まえ、きめ細やかな指標設定は不可欠だ。
農業を支える基幹的農業従事者(23年)は約116万人と、ここ20年間で半減した。食料安全保障を確保する上でも、農業を魅力的な産業に変え、多様な新規就農者を呼び込む必要がある。
その大前提となるのが適正な価格形成だ。将来展望が描け、安心して農業経営ができる環境整備を急ぐべきだ。