[論説]政府備蓄米の放出方針 取引の安定化をめざせ
2024年産米の生産量は前年産より18万トン増えたはずだが、流通上で不足が生じている。背景として押さえたいのが、米の取引でマネーゲームが広がっている点だ。昨夏にスーパーから米が消えた「令和の米騒動」が引き金となり、利ざやを狙った転売が活発化した。先高観から在庫を抱え込み、所在の分からない米も多い。市場経済では出荷・販売先を自由に決められるが、投機的な動きが強くなると混乱が生じる。かつて米の先物取引を巡る議論では、主食の米を投機対象とすることに警鐘が鳴らされていた。
混乱下にある米は今、同じ産地銘柄でも異なる価格で販売される「一物二価」の状況だ。主流であるJAなど産地と卸の「相対取引」と、業者間で売買する「スポット取引」の価格差が大きくなっている。相対取引価格は全銘柄平均が60キロ2万5000円に迫るが、スポット取引はその2倍近い水準で推移する。
スポット取引は国内需要の数%程度で、暴騰は局所的だ。全体の米価は長期低迷からようやく再生産可能な水準に回復してきた。これが生産現場の実感だ。あらゆる生産資材が高止まりする中で経営を潤すにはまだ十分でない。
投機的行動が広がると、JAなど大口の集荷団体に米が集まらなくなり、スーパーやコンビニなどが米を確保できず、消費者に影響が出る。調達できない業者は、民間貿易で海外から高い関税を払って米を輸入する動きを見せ、国産の需要が奪われようとしている。同省が備蓄米放出に動かざるを得なくなったわけだ。
備蓄米はこれまで、不作や災害への対応でしか放出できなかったが、「円滑な流通に支障が生じる場合」には農相の判断で放出できるとした。備蓄米は国が集荷業者や卸に販売し、1年以内に販売先から同じ量を買い戻すことが条件となる。一時的に流通量を増やして不足感を解消する狙いで、販売量や価格水準などは近く示される。米価の急落を防ぐルールのもとで、慎重な対応が要る。
米は薄利多売とされてきた。農家や業者が少しでも高く売りたい気持ちは理解できる。しかし、出荷契約や事前・長期契約をほごにしては信頼関係が損なわれる。米の需給や価格の安定を図るには、産地と実需の安定的な取引関係構築が不可欠だ。目先の利益にとらわれず、長期的な視点で米流通の混乱に対応していくことが肝要だ。