[論説]果実の卸売価格上昇 将来見据え生産戦略を
農水省によると、国産果実の卸売価格は2023年までの10年間で5割高となっている。優良品種・品目への転換が進んでいるのに加え、人口減による需要減少以上に生産が減っているためだ。卸売数量は同3割減った。
そこに温暖化や生産資材の高騰が重なり、全国主要7卸平均となる日農平均価格は、2月の普通ミカンが1キロ466円(前年比37%高、平年比56%高)、リンゴ「ふじ」が同478円(前年比26%高、平年比58%高)と過去最高を記録した。どちらも取引量は前年より2割ほど少ない。
スーパーはこれまで青果物を集客商材と捉え、例えばリンゴ1個198円など、消費者が手に取りやすい価格を提示してきた。だが、卸売価格の上昇をはじめ、物流費や人件費など運営コストも上がっていることから、従来の価格訴求を続けるのは難しくなっている。結果、リンゴの店頭価格は1個200円台、時には300円台などに引き上がった。価格訴求へのこだわりが薄れたことで、店頭では柔軟な価格設定が実現しやすくなったといえる。
ただ、気になるのが消費の減少である。家計調査では、生鮮果物の支出金額は24年は前年より7・4%減、今年1月は同16・4%減となり、落ち込んでいる。産地での気候変動対策が進み、一定に生産が回復した場合、果物の消費が戻るのか懸念が残る。
日本では所得格差が開き、今後も国産果実を買い支えられる層と、果実に手が届かない低所得層の二極化が続くとみられている。高品質化を進める一方、規格にとらわれず誰もが買える手頃な価格帯の生産も強化する必要がある。
例えば、長野県伊那市の果樹農家は「高密植栽培」を取り入れて低コスト化を実現した。「家庭の食卓には果物があってほしい」との思いからだ。流通段階では、選果を簡素化しコストを削減するところもある。値頃感を追求し、生産者の手取りを減らさない取り組みを進めたい。
今冬の大雪により、青森産リンゴの広範囲な枝折れなどによる雪害が明らかとなった。農研機構は温暖化により温州ミカンは今世紀末に栽培適地が全て適さなくなる可能性を示しており、栽培計画の見直しも急務となっている。永年作物である果樹は5年、10年先を見据えた中長期的な取り組みが重要となる。