[論説]新規就農者への支援 対象年齢の引き上げを
新規就農をする上で、高額な農機や施設などの導入資金以外にも、当面の支えとなる生活資金は欠かせない。収入が不安定な中、ベースとなる支援があれば、農業を始めるハードルは下がる。だが、同省の就農準備資金や経営開始資金の対象は、就農時の年齢が「原則49歳以下」で、就農後5年以内の認定新規就農者か、親から経営を継承する者といった条件がある。
同省によると、新規就農者は2015年には6万5000人いたが、23年には4万3500人と2万人以上が減少。一方、50歳以上の新規就農者の割合は、15~23年で常に6割に上る。49歳以下という縛りで就農を断念することのないよう、地域の実情に応じ引き上げる必要がある。
50代以上で就農を志す受講生が多く集まるのが、千葉県睦沢町に本部を置く「チバニアン兼業農学校」だ。同校に入学する受講生のうち、50代は全体の5割。政府による就農支援が得られない50代以上の中高年に対し、経済的リスクが少ない「兼業」を推奨し、指導している。平山泰朗校長は「70、80代が多い農業従事者全体で見れば、50代は若手。50代の就農希望者が多いのであれば、それらを支援しない手はない」と指摘する。
資材高で農業経営は厳しく高齢化は進み、農家は減り続けている。50代以上の新規参入は現場にとっては希望だ。49歳以下という年齢に縛られず、中高年を含めて幅広い年代が農業に挑戦できる環境整備と支援策が必要だ。
独自に支援策を用意している自治体もある。島根県は、農業とそれ以外の仕事に携わる「半農半X」の実践者を新たな担い手として位置付け、独自に支援している。対象は67歳までで、就農前研修や、営農の経費として月12万円(最長1年間)などを助成する。徳島県佐那河内村が創設した給付金は、50歳以上が対象だ。村にU・Iターンした50~66歳の新規就農者を対象に最大2年間で150万円を給付する。こうした支援をさらに広げる必要がある。
江藤拓農相も「49歳以下」としている年齢制限の見直しを「やりたい」と述べた。改正食料・農業・農村基本法で新たに定義した「多様な農業者」とは、若者や女性、障害者らだけではなく、50代以上の中高年も含まれるはずだ。あらゆる就農希望者への支援を惜しむべきではない。