[論説]相互関税で日米交渉 農畜産物犠牲にするな
米国の「相互関税」は、貿易相手国の関税と、検疫などの非関税障壁を考慮して設定されたとみられる。日本は24%となった。米国は9日に発動したが、直後に翻し、90日間停止して交渉に応じる姿勢を見せた。
日本政府は、担当の赤沢亮正経済再生相を派遣し、ベッセント米財務長官やグリア米通商代表部(USTR)代表との交渉に臨む。閣議決定した食料・農業・農村基本計画に反することなく、毅然(きぜん)と対応すべきだ。
米国の貿易赤字は、2024年に過去最大となった。製造業や雇用縮小への危機感は理解できるが、米国がこれまで進めてきた自由貿易の帰結に他ならない。一方的に関税を課すのは、身勝手と言うほかない。世界貿易機関(WTO)協定にも違反する。
トランプ大統領は、障壁の例として日本の輸入米制度を引き合いに出したが、認識不足も甚だしい。日本は1993年のウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)実質合意に基づき、ミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)米を、米国などから関税をかけず年間77万トンを輸入し続けている。
第1次トランプ政権時に結んだ日米貿易協定の共同声明では「協定が誠実に履行されている間、本共同声明の精神に反する行動を取らない」としてきた。トランプ大統領は今こそ、この声明を思い起こしてほしい。
米国の対日貿易赤字は、自動車や自動車部品などが大半を占める。農畜産物が市場開放された背景には、自動車などが引き起こした貿易摩擦がある。80年代には牛肉・オレンジ、雑豆などの12品目の輸入数量制限の撤廃を迫られ、ウルグアイ・ラウンドや環太平洋連携協定(TPP)交渉のたびに、農畜産物が譲歩を迫られてきた。結果、日本の食料自給率は38%(カロリーベース)と先進国で最低水準に低迷、農業の基盤は急速に弱体化している。もう限界である。
各国が経済優先の自国主義を見直さない限り、貿易戦争を回避できない。日本政府が主張すべきは、各国が「共生」できる貿易制度の構築である。
交渉は、世界が安定する新しい貿易ルールを話し合う契機とすべきである。「相互関税」から日本だけを除外してもらうような交渉姿勢では、根本的な問題は解決しない。