[今よみ]米の輸出拡大 関税捨てる覚悟あるか 農業ジャーナリスト・山田優氏
商社の人に尋ねてみた。
「値段を別にすれば、日本の短粒種米を買うのはイラク、イラン、レバノンくらいかな」
これらの国では長粒種の消費が多いが、イラクでは北部に多いクルド人が中短粒種を好む。国内生産では足りず、中短粒種はエジプトや米国カリフォルニア産を手当てする。
国際機関の調べでは2023年のイラクの米輸入量は185万トン。確かに日本の1万トンぐらいなら滑り込ませる可能性があるかもしれない。
商社員は笑いながら反論した。
「今のようなプレミアム(高価な)価格では買ってくれないから絶対無理」
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「米輸出のさらなる拡大に向け、海外における需要拡大を推進」と旗を振る政府は、米輸出量を5年後の30年までに7倍に増やす方針だ。パックご飯などを含めて米35万トンが目標だとか。おいしい日本の米なら勝算はあるそうだ。
確かに米輸出は増えているが、多くは海外の富裕層に「日本の米」という付加価値を付けプレミアム販売するものだ。昨年の米輸出量は4万5000トンに過ぎない。一部の農家にとって恩恵はあるだろうが、米の大量輸出は未知の世界。
イラクの精米輸入価格は1キロ当たり120円。玄米60キロなら6500円ほどになる。これから海上運賃、諸経費を引くと、日本の農家の手元に残るのはどれほどか。
私たちが今見ているのは、まったく逆の世界だ。不可能とされてきた1キロ341円の関税の壁を乗り越えベトナムや米国の中短粒種米が続々と日本市場に出回る。
テレビなどでは消費者が「けっこうおいしい」などと笑顔でインタビューに応じる。
海外市場では341円の壁がない。日本の消費者ですらおいしいと感じるベトナム米と、丸裸に近い国産米が海外の同じ土俵でガチンコ勝負となる。
トランプ米大統領は、繰り返し日本の米関税の高さをやり玉に挙げる。輸出振興とは国際競争に日本が乗り出す宣言だ。海外市場を開拓することは、海外に国内市場を開拓させるのと裏表の関係だ。守り続けてきた341円の関税を投げ捨てるだけの覚悟が、日本政府にあるのかを問いたい。