広島市の有機質肥料メーカーの大成農材は、東日本大震災で被災した宮城県石巻市の肥料製造工場を再建し、低迷した生産量のV字回復を果たした。みどりの食料システム戦略などで環境に優しい農業に注目が集まる中、時流を捉えた。同肥料を使って自社で手がけるトマトは、地元のJA直売所などで評判を呼んでいる。
2011年3月、需要期を目前に控え、タンクにいっぱいとなっていた肥料や工場が津波で押し流された。幸い、工場で働く6人の従業員は全員が無事。当時の状況を先代からつなぐ同社3代目社長の杉浦朗さん(38)は「生活の再建と雇用を守るために、自社工場を再建した」と振り返る。委託製造などで急場をしのいだが、11年度の生産量は1774トン、震災前の59%まで低迷した。
復興の転機となったのは20年ごろ。同社は「SNS(交流サイト)の普及で農家に横のつながりが生まれ、使っている肥料などがオープンになる中で、口コミで広まった」と見る。
環境と調和した持続可能な農業を目指す国のみどりの食料システム戦略も追い風となった。24年度の出荷数量は約7000トンと震災前の2・3倍まで伸びた。新たに設備投資し、25年8月には新たな製造ラインが稼働。生産能力を年6800トンまで拡大する。
同社が製造する有機質肥料「バイオノ有機s」や液肥「エキタン有機」は、魚肉に含まれるアミノ酸を多く含む。杉浦さんは「うま味を引き出す成分が豊富で、おいしい農作物が作れる」と語る。

同社では18年から広島県三原市で「大成ファーム」を開園し、自社肥料を使ってミニトマトをハウス栽培する。トマトを選んだのは「圧倒的な甘さやこくをダイレクトに伝えるため」(杉浦さん)。
全国で20戸ほどしか生産農家がいないという、品種「FS-45」を使用する。裂果しやすい特性は逆手に取って、ジュースに加工してロスを減らす。
生産量は24年11月から、約40トンに増やす。 杉浦さんは「漁港・石巻で魚由来の肥料を守り、地域のためになるように肥料を作り続けたい」と話す。
(大森基晶)