
1週間18頭残したまま 酪農家・中村亨さん
中村亨さん(67)が「やせていたが、勢いよく餌を食べる姿を見られてうれしい」と思いを明かす。中村さんの自宅と牛舎は1日から避難指示が続き8日に解除された大船渡市三陸町越喜来上甫嶺地区にある。牛の一部は同地区から車で1時間ほどの岩手県住田町に避難できたが、飼育する乳牛と和牛子牛37頭のうち18頭を牛舎に残していた。避難中、牛のことが頭から離れず、気が気でなかった。
避難指示が出た1日の朝、牛に餌を与えようとした中村さんは、警察官から服の袖を引っ張られ逃げるように急かされた。「せめて牛が水を飲めるようにさせてください」。頼み込んで牛に水を飲ませるためのウオーターカップを牛舎に設置し、脱出。一部の牛はJAおおふなと職員が使われなくなった牛舎を探し、餌などを手配し避難させることができたが、全てを救い出すことはできなかった。一度輸送を終えて再び戻り、残る牛を助け出そうとしたが、トラックが避難指示中の同地区に入ることができなかったという。
避難中、消防活動に当たる住民らが牛に餌を与えてくれていた。しかし、1週間超も搾乳ができていない。避難前の搾乳量に戻るには時間を要する見通しだ。中村さんは「とにかく牛の命が無事で良かったが、乳房炎が心配だ」と話す。
ハウス延焼の不安抱え シイタケ農家・舘脇一人さん
「菌床に玉(種こま)を植えたばかりだった。こんなにも火事が大きくなるなんて」。農家の舘脇一人さん(56)が疲れ切った表情で話す。
避難指示が出されたままの同市三陸町綾里地区に自宅と菌床シイタケのハウス2棟がある。避難区域外にある同市日頃市町にあるハウス3棟と合わせ、合計6・6アールを妻と2人で管理してきた。
舘脇さんによると、避難指示が出された翌2日に自身の所有するハウスが延焼するのを避難区域外で目撃した。自宅もどうなっているか分からない。来週、仙台市で娘の結婚式を控える。大きな不安を抱えながら、現在は避難区域外にあるハウスでシイタケ収穫作業を行っている。
JA営農部の紺野明部長は「組合員の体調が心配だ」と話す。避難指示が全域で解除されれば、営農再開を全力で支援する考えだ。
(藤平樹)