大阪府南部の泉大津市は全国の農村地域から有機米や特別栽培米を購入し、学校給食で使用している。大阪湾に面し、毛布製造が盛んな同市は農地面積が市域のわずか2・4%。異常気象などで食料の確保が難しくなった場合に備え、平時から産地と「顔が見える関係」をつくり、米を直接購入できる独自の調達網を構築する狙いだ。

住宅地に位置する児童約400人の市立楠小学校。給食の時間、担任の教諭が4年生に「ご飯余ったよー」と呼びかけると、子どもたちがわれ先に「めっちゃ盛りで!」と皿を持って集まってきた。
この日の献立は金芽米のご飯、ショウガみそ汁、カツオのゆずだれ、ニラと豚の炒め物。米は高知県香南市産の特栽米で、ニラも生産量日本一を誇る同市産だ。
農水省の統計によると、全域が市街化区域の泉大津市は、水稲の作付面積が11ヘクタール、米の収穫量は53トン(2024年)。市は非常時に自前で食料を確保することが難しいと考え、23年度から農業連携先の自治体を募り始めた。香南市とは以前から災害時の協力協定を結んでいた縁で米の提供に向けた話し合いが進み、協定を結んだ。
香南市では連携をきっかけに24年度から農業公社が5ヘクタールで特栽米作りを始めた。同年度は28トンを収穫し、泉大津市が全量を購入。同市の委託を受けた東洋ライス(和歌山県)が栄養やうまみを残した「金芽米」に精米加工し、今年3月から給食に提供している

香南市農林水産課によると、市は25年産から栽培面積を増やし、同市の学校給食米も全量を慣行米から市内産の特栽米に替える予定という。
泉大津市は他に北海道旭川市、滋賀県東近江市、熊本県人吉市など7道県8市町村と農業連携協定を締結。24年産はうち7市町村から有機米や特栽米を中心に計125トン購入した。学校給食以外にも、妊婦に毎月10キロを配布したり、高齢者に長寿祝いとしてプレゼントしたりしている。
自治体との連携を担当する泉大津市成長戦略課の宮下朝行さんは「産地は出口がないと『生産量を増やそう』とか『新しく有機に取り組もう』という動きも起こりづらい。都市部の消費地が産地にアプローチをかけて、取り組みが広がれば、日本全体が豊かになるのではないか」と意義を説明。「都市部の自治体は産地に支えてもらうだけでなく、産地を支えないといけない。産地と消費地の『共存共生』が一番のポイント」とした。
■泉大津市の概要
人口:7万2618人(3月1日)
農地面積:34ヘクタール
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