そういう部屋では何らかの心霊現象が起こるもので、食べ物についても不思議な経験をしています。
チョコは誰が食べたんかなと突き止めたくなって、寝る前にカメラを備えたんです。幽霊が撮れたかと思って朝にカメラを確認すると、寝ている僕がムクッと起きて、チョコレートの箱を開けて食べていたんですよ。びっくりしました。
たしかにその時期、チョコレートがすごく好きになってよく食べていたんですけど、まさか寝ている間にも食べて、その記憶もないなんてことがあるなんて。
別の事故物件に引っ越したんですよ。そこは高齢者の方が亡くなった部屋でした。なんでか分からないけどそこに住み始めたら、ぬれおかきが好きになって、そればかり買って持ち帰るようになったんです。それで同じように朝起きたら、ぬれおかきがなくなっている。前回同様、食べた記憶もないし。また寝ながら食べていたんです。
寝ている間に食べる現象があるうえ、部屋によって好物が変わるんです。しかも仕事などで地方に行くと、その間は土地の名産品を楽しみチョコレートもぬれおかきも食べないのに、家に帰ると……。
もし亡くなった方がその食べ物を好きだったとしたら、食べ物への執着が部屋にすごい力で残っているんだなあと感じますね。それが僕に移ったのかとも考えてしまいます。
睡眠関連摂食障害というのは夢遊病の一種で、寝ている間に体が勝手に起きて食事をしてしまうという現象。原因には薬の副作用やストレス等が考えられるそうです。
またレム睡眠時には普通筋肉が緩んで脱力状態になり動けないのですが、脱力状態にならずに行動してしまう状態がレム睡眠行動障害です。
この両方の可能性があるのは珍しいですね、と言われました。
以前本で読んだんですが、人間の細胞は7年たてば全部入れ替わるそうです。それが本当かどうかはわかりませんが、今ある細胞が数年後に全然違うものになるんだとしたら、すごいことだと思うんです。
一方、食べたもので自分の体が作られていくといいます。食べ物によって自分自身が作られるなら、自分自身というのはそもそもどこにあるんだろう。そう考えさせられます。
ぬれおかきばかり食べて7年間過ごしたら、もしかしたら前にその部屋に住んでいた方に近づいていくのかな。そんなことも考えさせられます。恐いですね。
今の部屋に住み始めて1年以上になります。この部屋に移ってからは、よくヨーグルトを食べています。それと野菜。ヨーグルトとサラダを買って食べるようになりました。
もともと僕は、コンビニ弁当やラーメンを食べるような生活でしたが、今の部屋に住みだして健康状態がとてもよくなりました。健康になりながら、もとの持ち主の方に近づいている可能性もあるかもしれません。
(聞き手・菊地武顕)
まつばら・たにし 1982年、兵庫県生まれ。2012年にテレビ番組の企画で大阪の事故物件に住み始め、これまで17軒の事故物件に住む。「事故物件住みます芸人」として、事故物件で起きる不思議な話をもとに怪談イベントに出演したり、執筆をする。著書「事故物件怪談 恐い間取り」は、20年に「事故物件 恐い間取り」として映画化された。今年6月に最新刊「恐い怪談」(二見書房)を出版。