
「うどん県」を自称する香川県の東かがわ市与田山地区。6ヘクタールを耕す農事組合法人・福栄中央の代表、藤本丈晴さん(59)が、トラクターに乗り、水田に戻すため残さをすき込みながら言った。「うどんだけじゃなく、学食もすごいけんね」
藤本さんは2時間前、市内にある県立三本松高校の学食の厨房でエプロンをしていた。
同校が“学食改革”に着手したのは、創立120年を迎えた2020年だった。普通科と理数科の全校生徒と教員が対等な立場で運営に携わる自治方式に転換し、校庭に畑を開墾したり、メニューを開発したりするプロジェクトを始動させた。
一方で福栄中央は、育てた米や野菜を学食に納入する傍ら、入札で調理も受託し、六次産業化に踏み出した。
当初は赤字が続いた。藤本さんは、規格外品の始末に悩む近隣農家に学食への無償提供と厨房で作った弁当の等価交換を持ち掛けた。コストを抑えつつ「うまい野菜」を食べてもらうためで、10軒の農家が快諾した。生徒が学校で育てた野菜と併せ、肉と魚を除く食材が外国産などから市産品になった。
藤本さんは社員ら4人で毎日100食近い定食と弁当を作る。燃料高騰などのあおりを受け、全国で学食の撤退や縮小が相次ぐが、同校の生徒は「次は地域に学食を開放しよう」と未来を語る。発端は、昨年春まで校長を務めた泉谷俊郎さん(61)の一言だった。
みんなで作り地域知る

「みんなでおいしい学食を作りませんか」。同年9月、泉谷さんは校内放送で生徒と教職員に呼びかけた。前任の小豆島中央高校の校長時代、生徒が島の人と地域の未来をつくる活動を支えた経験から「学食と地域がつながれば、生徒は地域に愛着を持つ」と考えた。
根底には、少子化を背景に止まらない地方の衰退を何とかしたいとの思いがあった。
参加の手が次々と挙がり、生徒と教員が対等な立場で共同運営する「三高(さんこう)みんなの食堂プロジェクト」が立ち上がった。メニュー開発や食堂の内装、畑での有機栽培、環境整備など九つのチームをつくり、生徒は勉強、部活、学食の三兎(さんと)を追った--。

リーダーの剣道部3年、山地紘生さん(17)が「地域のおじいちゃんやおばあちゃんも食べに来る『地域食堂』にし、地域みんなの食堂にしようと話し合っています」と打ち明けた。夏休みも学校の畑に来て草抜きをする美術部3年、長町美緒さん(17)は地域に関心を持つ大切さを知り、「野菜作りが楽しい」と喜びを隠さなかった。
「食で地域とつながった生徒は、県外や世界どこにいても地域を応援する」。昨年から校長を務める橋本和之さん(53)の確信だ。
16日は野菜農家から規格外のミニトマトが山盛り届いた。藤本さんは「好きなだけ食べていいぞ」と声をかけ、生徒は喜んだ。「ごちそうさまでした」。東かがわの空に今日も感謝の声が響いた。