[天皇杯への道](5)むらづくり 白糸第一自治振興会(熊本) 美景 都市住民と守る 特栽米、交流に力
阿蘇外輪山の裾野、標高約400メートルの山あいにある白糸台地には150ヘクタールの棚田が広がる。1854年に建設され、水源に乏しいこの棚田に今も水を供給するのが地域農業のシンボル・通潤橋だ。長さ76メートル、高さ20メートルで、石造りでは国内最大級。内部の泥や砂を除くための豪快な放水が有名で、橋は国の重要文化財、通潤用水は世界かんがい施設遺産にも選ばれた。
「通潤橋を建設した布田保之助翁のおかげで農業ができる。農地を荒らすわけにいかない」と同会前代表の草野昭治さん(68)。棚田を維持するため、同会は、農薬と化学肥料を慣行から半減した米の特別栽培に取り組む。
出荷協議会を立ち上げて技術の向上や商標登録、販路開拓を進め、「通潤橋水ものがたり」としてブランド化。用水にはタガメが見られるようになり、環境保全だけでなく、生産者の手取りも以前の1・5倍になった。
毎年秋には棚田ウオーキングと収穫感謝祭を開く。同会青年部がガイドとなって橋や棚田、茶園を歩き、用水の成り立ちや構造を紹介。収穫祭では羽釜で炊いた米、煮しめ、漬物など郷土料理を振る舞う。2020、21年は新型コロナウイルスで中止したが、毎年100人以上がやって来る。棚田に灯籠を並べて幻想的な光景を楽しむイベントや全国棚田サミットも開き、地域の魅力を発信してきた。
そんな地域に、16年の熊本地震で危機が訪れた。棚田ののり面や水路は崩落し、橋は石垣が損壊。だが、各地から復興ボランティアが訪れ、石拾いや農地の修復を助けた。棚田や橋に魅せられ、地域と交流してきた都市住民の姿もあった。復旧後も、ボランティアは水路の土砂上げや草刈りを手伝い、地域の営農を支えている。
地域では今も鳥獣害が多発し、後継者不足は課題。だが同会代表の山村伸吾さん(66)は「コロナ禍が終息すれば収穫祭を再開し、都市と交流しながら頑張っていきたい」と話す。(おわり)(岩瀬繁信、音道洋範、菊池光祐、木村隼人、西野拓郎が担当しました)
経営概況
2006年に設立。9集落、174戸の住民で構成する。地区の耕地面積は133ヘクタール。女性部会、青年部会など10の部会があり、環境保全や健康増進活動などを行う。地区は10年に重要文化的景観に選定された。
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