が、これが焼肉では「ロース=赤身肉」を指すことがあり、特に牛肉の場合「赤身肉ください」という意図でロースを所望する人がいたりする。ロース=赤身、カルビ=霜降りという構図だ。最近は焼肉業界でも正式な部位名での表記が推奨されているが、今でもロース表記でモモなどの赤身肉を出す焼肉屋は少なくない。なので肉屋としてはロースと言われて何も考えずサーロインを出すのではなく、お客さんの要望をちゃんと確認する必要がある。どんな料理に使うのか、霜降りがいいのか赤身がいいのか……など。まあどんな商売も、お客さんとのコミュニケーションが大事ですな。
ちなみにこの「ロース」の語源を調べると、英語の「ロースト」が元なんだとか。焼くのに適した肉という意味でローストが詰まってロースになり、それが背中側の肉一般を指すようになったと。当然純然たる和製英語で、英語圏では使われていない。単語の成り立ちからしてなんだかあいまいなのだ。
蛇足だが今回のコラムのタイトル、今年亡くなった大江健三郎の著作「あいまいな日本の私」のパロディです。説明しないと分からないのはパロディ失格かも。

公益社団法人全国食肉学校総合養成科第49期卒業
(有)岸商店(精肉店・東京都品川区)店長
五十嵐達雄