[論説]畜産経営の危機克服 データ解析力が鍵握る
スマート技術の進展は農業のデジタル化を進める。家畜の生育や繁殖周期、産物の出荷量といった生産情報から、資材価格、販売額といった経営指標をデータで収集でき、分析しやすくなった。従来の丼勘定や勘に頼った経営を見直す機会でもある。
全日本畜産経営者協会(全日畜)は、日本中央競馬会の助成を受け、本年度から畜産経営の危機克服・持続のための実態緊急調査事業をスタートさせた。自然災害や感染症の侵入、飼料高騰といった畜産が直面している問題に、全国の畜産経営体がどのように対応してきたか、アンケートなどで調べていく。
500の経営体にアンケートを配布し、優良事例も探す。経営者の意見交換会などを通じて、危機を克服するための“処方箋”を探る。2年間かけて事例集と報告書をまとめ、ホームページなどで広く情報提供をしていく。
既に事業の皮切りとなる地区ごとのワークショップが始まり、経営者が体験を報告している。東日本大震災から経営を復旧させた酪農家、鳥インフルエンザ殺処分から再建した採卵養鶏場、親から経営継承する際に多額の負債も一緒に引き継いだ肉牛農家など、危機を克服した農家が参加。経営者として、どのように課題に臨んだかを報告した。
どの経営もそれぞれに特徴がある。畜種は違うが、共通点がいくつかある。その一つが「データ重視」の姿勢だ。
飼料が高騰する中、売り上げ額と飼育日数、飼料代などのデータを基に、飼育方法を見直し、肥育日数を短縮できることを突き止めた肉牛経営や、新たな設備投資に際し、数値で徹底したコスト比較をした酪農経営者らがいた。
長期に及ぶ経営データを集め、分析することで融資を受けやすくなるとの声もあった。借入金の償還計画に説得力が増すからだ。データ収集と分析力が経営の鍵を握る。
農水省は食料・農業・農村基本法の見直しの中で、農業経営者に「経営管理技術向上の努力が必要」としている。適正な価格転嫁を消費者に求めるには、コスト構造を自ら把握し、説明できるようにしなければならないからだ。
デジタル化の進展で、経営データは集めやすくなっている。経営者にはそれを分析し、使う力が求められる。そしてJAなどの指導機関にも、同じことがいえる。