まずは人の流れ。当店のある東京の五反田は昔商店街だったが、今はビルだらけのオフィス街。大みそかも予約の品で昼過ぎまでは忙しいが、午後になると客足が鈍り、夕方にはほぼ人通りがなくなる。昭和の時代は大みそかも夜更けまで忙しく、職人さんの帰宅は0時過ぎになったというが。そもそも正月でも買い物ができる時代、昔みたいに大みそかまでに買いだめする必要もないのだろう。
二つ目が売れ筋商品。私が子どもの頃、大みそかには店を手伝わされたものだが、そこでやったのがすき焼き用牛肉の計量と梱包。とにかく次から次へと肉に牛脂を添えて包んでいく。それだけすき焼き用スライス肉の需要が突出していた。代わって令和の今、売れているのがローストビーフ用のブロック肉。ここ数年で、年末の牛の仕入れが「スライス向きの部位<ブロック向きの部位」に逆転してしまった。また昨今は霜降りの肉より赤身肉を好む人も多くなっている。これも時代の流れか。
最後は近所のそば屋。うちのような昔ながらの肉屋も減ったが、そば屋はもっと減ってしまった。私が子どもの頃は付き合いのあるそば屋が近所に4~5件あり、26日ごろから毎晩別のそば屋から年越しそばの出前を頼んでいたものだ。子どもながらにそばは飽きて天丼を頼んだり。もはや年越しそばじゃない。今や近所に残ったそば屋は1件のみ。大みそかも昔ほど忙しくはないとボヤいていたが、それでも普段よりだいぶ多めに豚ロースを仕入れていた。そば屋のだしをきかせたカツ丼、人気メニューのようで。オフィス街の谷間でしぶとく生き残る個人商店同士、今年もその先も頑張っていきたいものです。

公益社団法人全国食肉学校総合養成科第49期卒業
(有)岸商店(精肉店・東京都品川区)店長
五十嵐達雄