[論説]止まらぬ熊被害 出来秋前に対策強化を
環境省によると、熊による被害者数は5月が12人。4月の3人から急増した。例年5月は被害が増える傾向にあり、春になって冬眠明けの熊が餌を探そうと本格的に動き始めるためだ。乳牛を相次ぎ襲ったヒグマ、通称「OSO18」による記憶が新しい北海道では5月、乳牛の育成牧場で子牛4頭が死んでいるのが見つかった。ヒグマに襲われたとみられる。6月もタケノコの採取時に遭遇し、負傷した人だけでなく、熊が家に侵入してきたケースもある。
農家の安全はもとより、大切な家畜や農作物を守るため、日常の中で実践できる対策は多い。熊を誘い込む農作物の残さは、屋外に放置しないで必ず回収するなど、個人の対策に加え、熊が隠れる茂みをなくすため住民同士で協力し、草刈りをするなど地域単位でできることがある。住民向けに、熊の出没情報や被害を回避するノウハウを発信している自治体も多い。
熊による被害は、収穫期を迎える秋に入れば、さらに増えることが予想される。現在の被害防止策に加え、秋を視野に入れてもう一段階、警戒を強める必要がある。国や自治体は、今から住民への働きかけを強化し、改めて熊対策を啓発していくべきだ。
個人、地域単位での対策とともに、行政が主導し、人の生活圏まで侵入してくる個体を速やかに捕獲する体制作りも重要だ。狩猟者の高齢化で人材の育成や確保は難しく、持続的な狩猟体制を整えるのに苦慮する地域は多い。
相次ぐヒグマ被害を受け、北海道では、人の生活圏への出没抑制と、狩猟者の育成を目的に、雪が残る春に捕獲を推進する。冬眠明けの熊の足跡が雪の上に残っていて見付けやすい上、周囲を見通すこともできて比較的安全に捕殺できる点に着目した。2023年度は必要経費を市町村に助成し、多くの市町村が新たに始めた。一部区域では、ベテランの狩猟者に、経験の浅い狩猟者が同行し、技術を学べるようにした。
本州以南の自治体でも、ツキノワグマ対策として狩猟者の確保や監視体制の強化などに力を入れる。
財源確保や人材育成などの課題に対し、国は各自治体の対策を検証し、実効性ある施策を行ってほしい。国や自治体、狩猟者、農家を含む地域住民らの力を結集し、熊対策を進めよう。