[論説]拙速なバター輸入 産地の不満に向き合え
農水省は6月26日、国家貿易による輸入枠について、今年度はバターを4000トン追加すると発表した。生乳換算すると5万トンに相当し、埼玉県や広島県などの生産量と同程度だ。今夏も猛暑が予想され、生乳生産量の減少が懸念されることなどが理由だ。
これに対してJA北海道中央会の樽井功会長は、会見で「生産者の意欲的な取り組みに水を差すものにならないか」と懸念を表明した。道内の酪農家も「苦労して減産してきたのは何だったのか」と、不満をあらわにする。
北海道は乳製品との関わりが深い。道産の生乳は一部を飲用向けに供給するが、大半がバターや脱脂粉乳などの乳製品加工向けだ。脱脂粉乳の在庫が積み上がった2022、23年度は、需給改善のため増産基調だった道内の生産を抑える目標をJA系統として設定。酪農家は家族同然の乳牛の早期淘汰(とうた)に加え、脱脂粉乳の販売促進費用も負担した。この間、飼料高騰と副収入となる乳雄子牛の価格下落、昨夏の高温による生産減と、苦境が重なった。
多重苦の中、道内の酪農家戸数は今年2月までの1年間で、近年にない水準の4・6%減の4600戸となった。改正畜産経営安定法の下、需給改善に向けた負担が少ない系統外の生乳卸を選ぶ生産者も増え、不公平感などの感情対立が顕在化、産地が抱えた憤り、トラウマは相当なものだ。この間、国ができる酪農家への直接的支援はもっとあったはずだ。食料供給基地、北海道の食料安全保障を揺るがす問題となっている。
24年度、需給改善に向けた産地の取り組みに効果が表れ生産抑制は解除となった。産地がやっとの思いで需給を引き締めたところで、「バターの輸入枠を増やす」という政府の決断を、産地はどう受け止めたらいいのか。政府は、産地の痛みにもっと寄り添うべきだ。
農水省は今回の決定は「苦渋の判断」と説明する。確かに、消費者を再びバター不足で混乱させるわけにはいかない。バター不足の間、代替の油脂に置き換えられれば、乳製品全体の需要は減る。
増産、減産で翻弄(ほんろう)される酪農現場は疲弊し、生乳需給に関する制度や政策への不安が募る。安心して生産できる、息の長い政策支援が不可欠だ。日本の酪農基盤を守らねばならない。