[論説]迷走した台風10号 停電時の備えを確実に
8月22日にマリアナ諸島で発生した台風10号は当初、紀伊半島辺りに上陸後、北上するとみられていたが、気象庁や米軍合同台風警報センター(JTWC)が予想した進路は覆された。太平洋高気圧の張り出しが強まり、台風は九州南部へと西に移動した。
一般的に台風は、上陸後、偏西風に乗って速度を上げて温帯低気圧に変わる。だが、今回は大陸から別の高気圧が張り出したため、進路を失い、速度が時速15キロと極めて遅くなった。鹿児島県西部の薩摩川内市へ29日に上陸後、九州を横断し、勢力を弱めながら四国を東進。各地で線状降水帯が発生するなど、長時間、大雨や暴風が続いた。
鹿児島県では暴風と波浪、高潮の特別警報が出た。同県では畜舎やハウスの損壊・浸水、落果を確認。最大瞬間風速51・5メートルを記録した枕崎市では、茶園の塩害や定植後のカボチャに被害が出た。佐賀市では牛舎で火災が発生し、牛が犠牲になった。2度にわたって竜巻が発生したとみられる宮崎市では、住宅約900棟とハウスの損傷などが確認され、台風から離れた地域でも豪雨被害が多発した。
気象庁もJTWCも再三にわたって予報の変更を余儀なくされた。同庁担当者は「周辺の気象環境が変化している」とし、現行の予測技術には限界があるとの認識を示す。
気象を巡り「異例の」「記録的な」といった言葉が相次ぐ。災害はいつ、どこでも起こり得ることを前提に備えを進めなくてはならない。線状降水帯や台風の進路など、先端を行く気象庁の予測技術にも限界がある中で、激しさを増す災害に備えた対策を取る必要がある。
強化したいのが、停電への備えだ。九州電力送配電によると、鹿児島県では29日、最大で県内の23%に当たる22万5000戸が停電した。畜産では牛への給水や畜舎の換気ができない農場が相次ぎ、予冷庫が使えない施設もあった。
スマート農業やデジタル化の推進は、電力の供給が不可欠。JAの各部会では「事業継続計画書(BCP)」を策定し、停電時にどんな対応が必要か、非常用電源の導入など事前に備えておく必要がある。大規模停電の経験を踏まえ、発電機や配電盤の導入費用を支援しているJAもある。災害が起きても迅速に復旧できる強い産地へ、官民挙げて取り組みを強化しよう。