[論説]中山間直払い見直し 農村政策を軽視するな
25年度予算の概算要求を示した当初、同省は中山間地域に暮らす住民の見守りや送迎などを支援する集落機能強化加算を廃止し、農村型地域運営組織(農村RMO)に移行する方針を示していた。ところが、制度を検討する第三者委員会の委員や、廃止に戸惑う現場の声を受けて急きょ方針を転換。これまでの集落機能強化加算を「ネットワーク化加算」に再編し、他の集落協定と連携すれば、生活支援も加算するとした。
だが、集落機能強化加算とネットワーク化加算は、目的が異なる。他の集落協定と連携ができない地域もある。まるで“付け焼き刃”のような、同省の急な方針転換に、第三者委員会の委員からは厳しい批判も出ている。制度を検証する第三者委員会で、これまでの経緯を含めてしっかりと検証すべきだ。同省は10月から都道府県に対して説明会を開くというが、第三者委員会を開かずに説明会を行えば、現場は混乱し、制度自体の信頼性を損ねることになる。
NPO法人中山間地域フォーラムは24日、同省に対し集落機能強化加算廃止に関する意見書を出した。加算廃止は同制度の根幹に関わるとして厳しく批判。「廃止方針を撤回し実質的に継続するよう」強く提言した。同感だ。
同省は、集落機能強化加算を実質廃止した理由として「条件不利地の農業生産を重視した」などと説明する。だが、農村に生活の基盤があるからこそ営農を継続できるという認識が欠落している。
同加算を活用し、西日本でコミュニティーサロンを開く農家は「集落内外から人が集まる拠点ができ、地域が元気になった。サロンがなければ今ごろ、田んぼは荒れ地になっていた」と強調する。周辺の集落は、営農を継続できないとして直接支払いの申請を断念しており、ネットワーク化できる状況にない。こうした現状を踏まえ、20年度の第5期から集落機能強化加算が導入された経緯がある。
同フォーラムが指摘するように、食料・農業・農村基本計画には地域コミュニティー機能の維持・強化の推進が明記され、22年の新しい農村政策の在り方に関する検討会でも、集落機能強化加算の重要性が指摘された。これに逆行する事実上の加算措置廃止と、小手先の方針転換は農村政策の軽視につながる。徹底した検証を求めたい。