[論説]“米騒動”の教訓 需給変化へ備え強固に
“令和の米騒動”は、新米の出回りと共に沈静化しつつあり、関心は価格に移ってきた。2024年産米は、昨夏の猛暑や堅調な需要を受けて不足感が広がる中、出来秋を迎えた。JAから生産者に支払われる概算金は2~4割上げ、23年産で60キロ1万5000円台だった産地と卸の相対取引価格も上昇局面にある。
果たして米の価格は高いのか。精米5キロで3000円の場合、茶わん1杯(精米65グラム)当たり約40円。他の食品と比べたら割安ではないか。
注目したいのが、過去の米価だ。年間最大で100万トン以上の米を扱っていた全国米穀取引・価格形成センターによると、1990年代は60キロ2万1000円を上回って推移し、93年産は同2万3607円に。以降、スーパーでは値下げ競争が激化し、価格は押し下げられていった。
その間、農業を巡る資材価格など物価は大きく上がった。23年の農業物価指数は、生産資材全体の数値が過去最高となった。コストを商品に転嫁できず、稲作農家の離農は進む。20年の水稲作付け経営体の数は71万3792と、10年前から約4割も減り、主食の米が危機に直面している。
持続可能な稲作へ、今こそ窮状を訴える時だ。分かりやすく丁寧に、産地の情報を発信し、理解を広げたい。小売店との連携や交流サイト(SNS)の活用などが有効だ。
一連の“騒動”は、米の安定供給がいかにもろいかを示した。今後の米政策見直しにも影響が及ぶ可能性もある。ただ、米不足の要因を産地が取り組む生産調整に結び付けるのは短絡的だ。今回は需要量が20万トン程度、上振れしただけで混乱が生じた。
産地や卸を含め民間が抱える米の在庫量の適正水準を検証すべきだ。6月末の民間在庫量は、産地の適正生産量を設定する上での指標となり、近年の適正水準は180万~200万トンだった。ところが今年、来年はともに150万トン台になる見通し。農水省は、「米の需給は逼迫(ひっぱく)していない」との考えを示してきたが、民間在庫が少ない中で、今夏のような需要増が重なれば、今後も市場に混乱が生じる。
需給環境の変化へ対応力を強めたい。政府備蓄米も市場に混乱をきたさぬよう運用見直しを検討する時だ。目指すべきは、米需給の均衡による稲作経営の安定だ。