[論説]新規就農者が過去最少 所得確保できる農政を
農水省によると新規就農者の数は、データのある06年から減少の一途をたどる。23年は、06年(8万1030人)の半分まで落ち込んだ。若手の新規就農者も減り続け、49歳以下は1万5890人と、前年比5・8%も減った。
内訳を見ると、実家の農業に携わる「親元就農者」が3%(1070人)減の3万330人、農業法人への就職など「新規雇用就農者」は12%(1270人)減の9300人だった。農地や資金を用意して一から農業を始める「新規参入者」は3830人。ここ数年伸び続けていたが、4年ぶりに減少に転じた。
背景にあるのが人材獲得競争の激化だ。少子化が進んで人手不足が深刻化し、企業間で人材の奪い合いが起きている。まして農業は生産資材の高騰が長期化し、厳しい局面にある。大地を耕し、命を育む農業に魅力を感じていても、違う就職先を選ぶ人が増えたとしても無理はない。
度重なる気象災害や高齢化で離農が進む一方、新規就農者が減れば、生産基盤の弱体化は避けられない。25年ぶりに改正された食料・農業・農村基本法が目標に掲げる食料自給率の向上も遠のく。
新規就農者の減少を食い止めるために何が必要か。何より重要なのが、再生産が見込める農業所得の確保だろう。資材高騰で農業経営は悪化している。帝国データバンクの調べによると、今年の米農家の倒産・廃業件数は過去最多を更新する見通しだ。まずは資材コストを反映した適正価格の実現に向け、国は仕組みづくりを急いでほしい。
多様な担い手の確保も欠かせない。改正基本法では、大規模農家だけでなく、小規模家族農業や女性、移住者など多様な農業人材の確保を重視する方針を打ち出した。来年の新たな基本計画策定に向けた議論では、その具体策について重点的に議論すべきだ。
立憲民主党の代表選に次いで自民党総裁選が行われる。立憲民主党の新党首となった野田佳彦氏は、新規就農者の確保へ「令和版の国立農業公社」の設立を提唱した。
農業は、人と農地などの生産基盤がなくては成り立たない。自給率向上や食料安全保障確保を訴えるのであれば、価格競争に巻き込まれない安定した農業経営の実現が不可欠だ。近いうちにあるとされる衆院選でも、農政について活発に議論すべきだ。