[論説]農作業事故の撲滅 海外に安全対策見習え
農水省が発表した、直近の7月の農作業死傷事故は41件。うち半分の20件が死亡事故だった。同省の調査によると2023年の死傷事故は303件で、うち106件が死亡事故だった。事故は5月と9月に多い。同省は「熱中症や農機事故の未然防止」を呼びかけているものの、農家の命を守る24年度予算は2400万円と乏しく、大幅な拡充が求められる。
農業就業者10万人当たりの死亡事故は10・5件と、全産業平均の8倍に上る。改正食料・農業・農村基本法では、農業の持続的発展に向けて、新たに移住者や地域おこし協力隊など「多様な農業者」の存在が盛り込まれた。農業に不慣れな人でも安全に作業ができなければ、持続可能な農業農村は築けない。
ところが、肝心の政治家の関心は低い。与野党党首選では自給率向上や食料安全保障、水田政策、地方創生などは議題に上ったが、いかに農業は危険な産業か、それをどう安全な環境に変えていくか、言及はなかった。食料安保に関心はあっても、食料を生産する農家の安全をどう確保するかになると、極端に関心が低くなるのはなぜか。
見習いたいのが、国を挙げて法整備が進む韓国だ。与野党の議案提出を受け、同国政府は16年に農作業事故の予防に向けて「農災保険法」を施行した。法制化によって、5年ごとに農相が農作業安全基本計画を作成し、毎年の進行状況を国会の常任委員会に提出するよう義務付ける。労災保険の加入を支援した結果、農家全体の6割(91万人)が加入した。地域の安全対策をリードする人材養成も進んでいる。現在は、来年度から5年間の第2次基本計画を立案中で、事故率を毎年5%減らす目標を掲げる方針だ。36の自治体では農作業安全条例を制定した。
台湾も、18年から農民の職業災害保険(農民職災保険)を導入。台湾農業部によると23年12月現在、保険加入者は、農業就業人口の63%に当たる約33万人に上る。一方、日本は労災保険の特別加入者の割合は1割程度にとどまり、事故に遭っても公的補償を受けられない個人農家は多い。
事故を起こした農家だけに責任を押しつけてはならない。事故情報を自治体やJAを通して国が迅速に吸い上げ、原因を究明し、対策をとらなければ悲劇は終わらない。