[論説]新規担い手の離農 現場先細り 食い止めよ
少子高齢化が進み、農村では人手不足が深刻化する。農水省によると2023年の基幹的農業従事者は116万人と、ここ5年で約30万人も減った。7割は65歳以上で、49歳以下は12%しかいない。
こうした中、地域の生産基盤の維持に向けて、頼りたいのが新規就農者の力だ。だが23年の新規就農者は4万3460人と、ここ5年で1万人以上減った。49歳以下は1万5890人で、多くが50歳を超えて就農している。
貴重な戦力となる新規就農者だが、就農しても離農してしまうケースもある。新規就農者の何割が離農を選ぶのか詳しい統計はないが、総務省によると、農業法人などで働く新規就農者を対象にした研修を支援する「農の雇用事業(当時)」では、研修生の39・5%が離農していたという調査結果もある。
離農の理由は、農業の理想と現実のギャップや、給与や勤務時間への不満、体力や精神面での不安などが挙がった。新規就農者が抱く「現場と合わない」「想定と違っていた」というミスマッチを解消しなければ、今後も農業の未来を担う新規就農者の離農は相次ぐことになる。
注目したいのが、宮崎県と熊本県天草地域での「お試し就農」の取り組みだ。熊本県天草地域では、JAあまくさ、JA本渡五和と天草市が連携し、即戦力となる新規就農者の確保に向けて独自の取り組みをしている。その一つが「お試し研修事業」だ。地元農家の下で農業を学ぶ未経験者に対し、1世帯当たり月12万円を最長3カ月給付する事業で、これまでに10人が就農した。
宮崎県には、農業法人や農家のもとで最大3カ月間体験就農し、県がその間の給与を半額補助する「お試し就農」がある。希望者が就農期間を設定し、農業や雇用先との相性を事前に見極められてミスマッチを防げるという。事業を始めた15年度以降、就農者は300人を超えた。
お試し就農で、希望者は、農業やその地域になじめるかどうか、適性を判断できる。本格的に移住する前に撤退や他の地域を探る選択肢も得られる。受け入れ側も移住者がどうすれば定着できるか、考えるきっかけになろう。
相次ぐ災害、資材高騰で担い手不足は深刻化し、農業・農村の疲弊は進む。今、政治が向き合うべき重要課題だ。