[論説]下水汚泥肥料の普及 課題克服し全国展開へ
国土交通省によると、国内では年間230万トンの下水汚泥が発生する。その中には肥料の主成分であるリンが5万トンほど含まれており、肥料原料として活用しているのが神戸市だ。メーカーやJA兵庫六甲と連携して商品化し、2014年に野菜用の「こうべハーベスト10―6―6―2」が肥料登録された。現在は水稲用の一発肥料もある。ウクライナ危機や円安などを背景に輸入の化学肥料の高騰を受けて、野菜用肥料の販売数量は21年度の4249袋(1袋20キロ)から22年度には1万2769袋と3倍増となった。
ただ、全国的に見ると下水汚泥の多くが焼却処分され、肥料利用は1割にとどまる。政府は、30年までに国内資源の利用割合(リンベース)を4割に高める目標を掲げる。農水省は、各地でフォーラムを開いて、国内の未利用資源の活用を推進するとともに、利用者と製造・供給事業者とのマッチングを進める。
同省は23年、農家が安心して使えるよう新たに「菌体りん酸肥料」の公的規格を設けた。登録されると肥料成分が保証され、他の肥料と混合できる。名古屋市が製造する「循かん大なごん」は自治体の乾燥汚泥を利用し初の規格登録を受けた。市は、粒状複合肥料(BB肥料)の原料としての利用を想定する。
全国的に普及するための課題は三つある。一つ目は下水汚泥に対する消費者のイメージ改善だ。23年度から下水汚泥肥料を製造・供給する静岡県藤枝市では、処理施設を見学した小学生に汚泥肥料を配布。持続可能な開発目標(SDGs)の達成につながると説明する。住民が抱く汚泥への抵抗感を取り除く地道な取り組みが求められる。
二つ目は安全性や肥料成分の確保だ。農業者の中には「カドミウムや鉛、水銀など重金属が含まれるのではないか」「肥料成分が安定しないのではないか」といった懸念が根強い。公的機関や製造者による丁寧な説明と分析データの公開が不可欠となる。
三つ目は作物に応じた施用のタイミングや、散布方法など技術の確立だ。実証に取り組む農業者からは「散布の手間がかかり、コストをかけずにまく方法はないか」「肥料と捉えるより、土壌改良材として使ってはどうか」などの意見や提案を相次ぐ。現場の声を共有し、普及につなげる工夫が求められている。