[論説]衆院選、論戦本格化 農家所得の確保争点に
今回の衆院選は改正食料・農業・農村基本法施行後、初の大型の国政選挙となる。選挙後には、改正基本法に基づく食料・農業・農村基本計画の見直しが控える。農畜産物の生産コストが高止まりする中、適正な価格形成の仕組みをどう構築し、農家所得を確保するのか、具体的な議論を戦わせてほしい。
日本農業新聞が行った農政モニター調査で、「農家の所得確保」を求める声が6割を超え、最多となった。生産資材価格や人件費の高騰で、農業経営に「大きな影響がある」「やや影響がある」と答えた割合は8割に上り、生産資材高騰に対する価格補填(ほてん)を求める声も過半を占めた。所得確保は、改正基本法が掲げた食料安全保障の根幹であり、農業予算の大幅な増額は欠かせない。
争点は、所得確保に向けた具体策だ。与党は、農畜産物の販売価格に、生産コストを適正に反映させる仕組みの構築を目指すが、立憲民主党など複数の野党は、農家の所得を補償する新たな直接支払制度の創設を主張する。双方の議論は平行線をたどるが、実りある活発な論戦につなげてほしい。
石破茂首相が提起した水田政策の見直しも注視したい。少子高齢化で米の需要減が続く中、水田活用の直接支払交付金の予算額が年々増加していることなどが背景にある。ただ、同交付金は単なる転作奨励金ではない。国産の小麦や大豆などを増産し、食料自給率向上につなげる現場にとって欠かせない交付金だ。米の需要拡大へ、米粉用米などの生産拡大も求められる。
改正基本法の趣旨を踏まえ、食料安全保障の確保という中長期的な観点から、持続可能な水田政策を検討すべきだ。23年の新規就農者数は4万3460人と、2年連続で過去最少となった。生産現場で離農が相次ぐ中、多様な担い手を今後、どのように確保するかも課題となる。
自民党は公約で「地方創生の交付金の倍増を目指す」と明記した。過疎化が進む地方を活性化し、地震と豪雨の二重災害に苦しむ能登の復興につなげるか、各党は具体策を戦わせてほしい。
「政治とカネ」の問題を受け、政治への信頼回復が急務となっているが、食と農業の在り方も争点として議論すべきだ。所得増を求める農業現場の声に政治はしっかりと応えてほしい。