[論説]米の集荷苦戦 安定供給を後押しせよ
比較的規模の大きい集荷団体・業者を対象にした農水省調査によると、シーズン終盤となる10月末時点の全国集荷量は前年比9%減の約160万トンと低迷する。関東や近畿など消費地に近い産地では、前年より2割以上少ない例もある。一方で、小規模業者の集荷や農家の直売、縁故米などが増えたとみられ、米の流通ルートは複雑化している。
産地は集荷量確保へ奔走した。JA全農とやまと県内JAは、今年の田植え期から、「圃場」と書いた看板を生産者の水田に設置。米を待つ取引先がいることを伝え、出荷を呼びかけた。ホクレンは、タレントのマツコ・デラックスさんを描いたうちわとメッセージを生産者に配布。集荷数量を積み上げてスケールメリットを発揮し、大手取引先との販売・価格交渉を有利に進める共同計算の役割に理解を求めた。
ただ、あの手この手で集荷を工夫するも、最終的には量の確保へ概算金を積み増した産地が多かった。競合する集荷業者がそれを上回る金額を生産者に示し、JAとの出荷契約が、ほごにされた例もあった。産地にとって、概算金を販売価格に転嫁できるか、不安は大きい。
一方で、米販売のペースは速い。10月末時点で全国段階の販売数量は前年を3割上回った。米を十分に確保できない中、引き合いは強まるばかりだ。米穀機構が今月まとめた向こう3カ月の需給見通し指数は基準点の50を大きく上回る71と、前月に続いて上昇し、需給が引き締まる見方が再び強くなっている。
2024年産米の生産量は679万トンと前年産から3%(18万トン)増える見通しだが、出来秋前からの在庫の不足感を引きずる。十分に調達できない現状への不安感は大きく、スポット市場で米を仕入れる動きが出て、業者間取引価格が急騰する。価格上昇の恩恵が生産者でなく、転売業者に渡っていることが課題だ。利ざやを狙う動きは活発化し、従来ルートでの米の調達をより難しくしている。
市場経済では出荷・販売先や価格を自由に決められる。だが、米は嗜好品でなく国民の主食だ。業者が高値売り切りを狙っても、通年で供給する責務が産地にはある。販売期間が長いほど保管経費は多くかかり、小売り・外食企業からは安定供給を求める声は一層、高まる。安定供給に貢献する取り組みを政府は評価する必要がある。