[論説]深刻な高温被害 現場の成果共有しよう
日本農業新聞「農家の特報班」が、今夏の猛暑・高温で農業経営にどれほどの影響が出ているかを聞き取ったところ、農畜産物の生産・出荷量が「減った」とする回答は65%に上った。農産物の等階級や格付け、糖度や着色などの品質も「下がった」が66%を占めた。
具体的には「稲の株張りが小さいままで収穫量は減った」「定植後の苗が溶けた」「早期落果や裂果、カメムシ被害が多かった」「牛の発情が来ず種付けできなかった」といった被害が相次いだ。生産量や品質の低下は農家の収入減少に直結し、農業経営をも危うくさせる。
温暖化で毎年のように高温が続き、かつてない減収や病害虫による被害に直面する中、「農業を続けられるのだろうか」と懸念する声も多く出た。ただでさえ多くの農家は生産資材の高騰が長期化し、経営は苦しい。そこに高温による打撃が重なり、経営を一層、厳しくさせている。
高温は、国内外の食料の安定供給に大きな影響を与え、農家だけでなく国民全体に関わる問題だ。中長期的な農政の方向性を定める食料・農業・農村基本計画の策定を来春に控える中、同計画を検討する農水省の企画部会では、高温下での生産安定技術や高温耐性品種の開発も議論されている。高温対策を基本計画の柱の一つに据え、農畜産物の安定生産につながる有効な対策の確立を急ぐべきだ。
国や都道府県の試験研究機関では、高温に適応した品種や栽培管理の研究開発が進む。新技術の確立、普及と合わせて重視したいのが、高温下でも生産量や品質を維持している篤農家の優れた技術だ。
本紙特報班のアンケートでも、20%が生産・出荷量が「増えた」とし、18%は品質が「上がった」と回答した。具体的には「水稲の葉色を測定した上での追肥」「高温期の間断かん水」といった基本管理の徹底に加え、「高温に強い品種の導入」「水管理センサーの活用」など最新技術を活用している事例もあった。
こうした知見を横展開したい。農家の実践例に基づき、基本管理や最新技術がどのような成果を上げているかを改めて検証し、多くの農家と共有できれば、高温下でも強い農業の実現につながる。
まず政府が主導し、自治体やJAと連携しながら、来季の対策に生かしてほしい。