[論説]農業のトイレ問題 男女別で快適な空間に
誰もが働きやすい職場とは、環境面でいえば①心理的ストレスがなく、安全で安心できる②プライベートな空間がある──ことではないか。
その意味で男女別のトイレや更衣室、休憩スペース、シャワー室は欠かせない。誰もが安心して働ける環境整備が不十分では、長く働ける職場にはなりにくく、農業は敬遠されてしまう。
特に農業現場で働く女性にとって快適なトイレの設置は、長年の課題となっている。近年では、国や県が支援策を打ち出す動きも出てきた。
農水省は、2024年度補正予算で「女性の就農環境改善・活躍推進事業」を盛り込んだ。女性が働きやすい環境整備に向けて、1件当たり300万円を上限に助成する。男女別トイレや更衣室、託児や休憩のスペース、アシストスーツや高さが調節できる作業台などの備品を確保できる。「女性の活躍推進」の一環で、事業名は違っても同省は同様の支援を続けている。
佐賀県も、2月の補正予算で「さが農林漁業働く環境サポート補助金」を整備。改善に必要な設備投資について500万円を上限に3分の2を支援する。圃場への移動式トイレや洋式への改修、更衣室の導入、作業場へのエアコン設置、外国人材受け入れのための社員寮の整備、休憩室の増設などを想定している。
たかがトイレ、されどトイレ。国や県レベルで支援をすることは大きな意義がある。生産資材、流通経費などあらゆるコストの高騰が続く中で、個人農家や農業法人での施設整備は経営面で非常に厳しい。加えて、意欲ある多様な人材を農業分野に呼び込むには、業界挙げて取り組まなければならない喫緊の課題だ。
同省の事業を活用した「みんなが働きやすい環境整備」の事例がホームページで掲載されており、参考になる。22年度事業で女性専用トイレを設置した埼玉県白岡市の関田農園は「採用面接の際、トイレについて質問されることが多い」とし、設置後は「自信を持ってアピールでき、雇用につなげられている」と語る。採用者だけでなく、従業員からも「安心して使える」「順番待ちが解消された」などの声が上がっているという。
農業現場の環境整備が、人材の採用や定着に及ぼす影響は非常に大きい。トイレは誰もが使う場所であり、決して軽視すべきではない。