[論説]備蓄米の放出 生消の溝埋める政策を
第1弾の入札は10~12日に開かれ、放出を予定する21万トンのうち15万トンを対象とした。落札量は14万1796トンに上り、多くが24年産で一部23年産もあった。備蓄米は集荷団体・業者を通じて卸などを経由し、スーパーや実需に供給される。米流通の円滑化に向けた同省の対応を評価する声が上がる一方、消費者からは厳しい意見も出ている。
背景には、備蓄米を放出する目的が、需給の安定から店頭価格の値下げに変わったことが大きい。今回の落札平均価格は60キロ税別で2万1217円で、24年産相対取引価格に近い水準となった。流通上の不足が解消されても、店頭価格の大幅下落につながらない可能性が高く、消費者に落胆も見られた。
なぜ放出の目的が変わったのか。米の欠品が広がった昨年9月、同省は「今後、新米が順次供給され、円滑な流通が進めば一定の価格水準に落ち着いていく」と説明していた。実際は24年産の出来秋後も激しい調達競争が繰り広げられ、価格は下がらなかった。多くのメディアは「いつ価格が下がるのか」に焦点を当て、その背後にある農業問題への言及が乏しく、適正価格への理解が進まなかったことの一因となっている。
放出予定の計21万トンは、年間需要量の3%程度。一部で安価な米が出回っても、相場への影響は限定的だ。国は需給への影響を抑えようと、原則1年以内に落札業者から同量の米を買い戻す方針だ。価格を市場に委ねてきた政府が、直接介入により価格を急落させることは難しい。
価格を巡る騒動が収まらない理由に目を向けるべきだ。資材高騰が長期化する中、農家が再生産できる価格と、消費者が「ここまでなら購入できる」という価格に開きがある。安さばかりを追求すれば稲作の継続は困難だ。一方で価格の異常高騰は米離れが進むだけでなく、民間貿易で米を輸入する動きを広げる。コストを削減し、生産性を向上することは重要だが、肝心の農家所得を確保できなければ意味はない。
適正価格の形成に向けて消費者の農業理解を促し、それでも埋められない溝は政策で手当する、両面からの支援が必要だ。直接支払いの拡充は、論点の一つとなろう。
財源確保が課題となるが、再生産できる農業へ、政治の後押しが必要だ。