[論説]退職自衛官の就農促進 政府支援の具体化急げ
多くの自衛官は会社員などより若く退職する。退職年齢は、若年定年制で50代半ば、任期制では20~30代半ばで、退職者数は年間約7600人に上る。退職自衛官は、厳しい訓練で培われた体力や精神力、協調性を身に付けているだけでなく、再就職支援の職業訓練を通じて、各種自動車・機械などの運転免許・資格や取り扱い技能も備えている。現状の再就職先は、サービス業や運輸・通信業、製造業などが中心で、農林水産業は若年定年者で0・6%、任期満了者で1・1%にとどまり、農業などの第1次産業は主要な再就職先にはなっていないのが現状だ。農業・農村の側から見れば、貴重な人材を逃している状況といえる。
一方で、自衛官の配置が多く、1次産業が基幹産業の北海道では、セカンドキャリアとして農業を選んでもらう取り組みが盛んだ。道庁や自衛隊の再就職を支援する団体、JAなどが連携。退職予定の自衛官向けの体験・説明会やインターンシップ(就業体験)などが各地で開かれている。ぜひこうした取り組みを全国に広げよう。
石破首相は3月上旬の衆院予算委員会の質疑で、元自衛官の農業大学校での受け入れを求められ、「自衛官と農林水産業はものすごく親和性が高い」と強調。農業大学校の授業料減免などの具体策については「政府内で検討させてもらう」と述べた。防衛相と農相の経験を持ち、国防と農政の両分野に詳しい石破首相だけに、支援策の具現化に向けて今こそ、強いリーダーシップを発揮してほしい。農業の担い手確保は喫緊の課題だ。
一方、農業は自衛官に限らず、多様な分野からの人材を受け入れている。サッカーや野球などの元プロ選手も各地で就農している。
農福連携の取り組みにも期待したい。政府は2024年に改定した「農福連携等推進ビジョン」で、「ユニバーサル農園」という考え方を打ち出した。障害者だけでなく生活困窮者、引きこもりの人、犯罪を犯した人など、世代や障害の有無を超えた多様な人が社会参画する農園の普及を目指している。
元自衛官や元スポーツ選手、困難を抱えた人など多様な人材が農業に参入することで社会課題の解決も期待できる。JAや農業者も積極的な関わりが求められる。