[論説]花の球根ショック 産地維持へ飾って応援
財務省貿易統計によると、2024年のユリ球根の輸入量は10年前に比べて3割減、1個当たりの価格は同4割高くなった。世界的な球根不足が原因で、次の冬に出回る切り花向け球根も、主産地オランダが不作で減る見通しだ。球根は粒状の種より1個当たりの単価が高く、生産費に占める割合は高い。球根を輸入に頼る国内のユリ切り花産地の弱さが現れた形だ。
特に打撃を受けているのが高知県だ。高知市のユリ農家で、県域のユリ生産振興組織の代表を務める森田浩明さん(63)は「この1年で120万本分の生産基盤が失われた」と指摘する。生産者のネットワークを作り消費拡大に尽力してきたが、輸入事情に振り回されている。代表的な「カサブランカ」もオランダの種球根が減り、栽培継続が危ぶまれている。減産で今冬のオリエンタルユリの市場価格は上昇、1、2月の主要卸の価格は平年比4割高となった。生産者は暖房費などを含む資材費の高騰が補われ、収支のバランスは取れるものの、購入が敬遠される懸念もある。
問題は、厳しい産地の状況の共有が市場どまりで、消費者に伝わらないことだ。消費者の窓口となる生花店が産地とつながり、球根不足の実情を発信し、価格転嫁への理解を求める必要がある。
卒園や卒業式などに欠かせないチューリップも輸入球根が高騰する。貿易統計によると24年の1個当たり輸入価格は10年前の5割高。オランダ産の不作で値上がりは激しく、富山県で切り花用に栽培する農家は、来季向けの球根価格が2年前の倍以上になり「来季の相場次第で生産に見切りをつける農家も出るだろう」と危ぶむ。同県はチューリップ畑が観光資源になっているが、地域のシンボルが消える不安をはらんでいる。
今こそ力を入れたいのは、輸入球根に左右されない国内育種だ。近年は鹿児島県育成の八重咲きテッポウユリ「咲八姫(さくやひめ)」が新品種コンテストで最優秀賞を獲得。上向きに咲くため、花束にしやすい。山口県も日本原産のスカシユリを交配し、10センチ程度の小さめの花で飾りやすい品種を育成した。
今春開幕する大阪・関西万博に続き、27年には横浜で国際園芸博覧会がある。日本のユリや球根の魅力を発信し、消費者の支持が得られる持続可能な産地づくりが必要だ。