[論説]農畜産物の輸出 国内の基盤強化が先だ
2024年の日本の農林水産物・食品の輸出額は、円安も手伝って前年比3・6%増の約1・5兆円と過去最高となった。政府は「この勢いをもっと伸ばしたい」(農水省)と30年までに5兆円を目指している。
昨年改正した食料・農業・農村基本法でも、輸出の強化を打ち出した。次期の基本計画では重点29品目の輸出額を掲げ、米や牛乳・乳製品など18品目で24年実績の2倍以上に輸出を増やす計画だ。
確かに、和食人気やインバウンド(訪日外国人)を通じた需要の増加で輸出は拡大している。少子高齢化に伴う人口減少で国内の需要が今後、急速に先細ることを考えれば、輸出に日本農業の活路を見いだし、生産基盤を維持しようという政府の考えは、一定に理解できる。
食を巡る世界の市場は、20年は約900兆円だったが、アジアや欧米を中心とした旺盛な需要で、40年には2倍の約1800兆円に拡大するとの見通しもある。良質な日本産農畜産物を海外に売り込む機会を見逃す手はない。
ただ、輸出の促進以上に力を注ぐべきは、衰弱する国内の農業基盤の強化ではないか。農地と担い手の減少は深刻で、このままでは20年に437万ヘクタールあった農地は30年には400万ヘクタールを下回り、農業経営体は20年の108万から30年には54万まで半減する。
生産現場からは、人と農地が減り続ける中で、国内需要に応えられるのか、疑問視する声が上がっている。「令和の米騒動」の背景には、環太平洋連携協定(TPP)や日米貿易協定などの輸入自由化のたびに国内農業が犠牲になり、生産基盤の弱体化に歯止めがかからないことがある。
農畜産物の輸出は為替変動に左右されやすく、空路か船便かなどルートの確保も必要だ。輸出を意識した農業経営の育成や輸送資材の開発なども欠かせない。
農林水産物・食品の最大の輸出先である米国は、4月2日にも「相互関税」を導入する方針で、関税の引き上げも予想される。中国も、原発事故に伴う処理水放出などを口実に水産物の輸入規制を続け、牛肉も検疫を理由に停止している。輸出拡大は必ずしも万全な策とはいえない。
優先すべきは38%しかない食料自給率を生産、消費の両面から引き上げ、生産基盤を強化することではないか。