[論説]スマート農業の実用化 狭小農地を取り残すな
「スマート農業技術活用促進法」が施行されて半年。担い手不足の中、農水省の2025年度の支援事業を受けて今後、急速に農業現場にスマート農業技術が実装されていくとみられる。既に無人で圃場(ほじょう)内を自動で走行するトラクターや自動操舵(そうだ)コンバイン、ドローンを使った農薬や肥料の散布、播種(はしゅ)などの利用が始まっている。人工衛星からの位置情報を利用して田植え機の直進を手助けするアシスト装置や、衛星からの画像解析で作物の生育を診断し、無駄のない施肥に生かす技術も実用化している。
現在、市販されている自動走行のロボットトラクターは1000万~1500万円の価格帯。旋回に必要な枕地は自動運転できないため、狭い圃場では効率が上がりにくい。実用化されたロボットトラクターは75馬力以上で、狭い農道や圃場には入れない。
自動操舵コンバインも6条刈りで、小さな水田では動かせない。機体が大きいと、取り付け道路が整備されていなければ圃場間の移動も厄介。田植え機の直進アシスト装置も、直線距離が50メートル以上ないとメリットが生かしにくい。
自動運転を支える人工衛星利用の位置情報システム(GNSS)は、電波障害を受けやすい中山間地では、誤作動が起きる心配がある。ドローンは高低差がある棚田や田畑の間に森林がある場所では、平地ほど効果を上げにくい。
昨年施行されたスマート農業技術活用促進法は「農業者の減少及び高齢化の進展(中略)に対応して」の文言から第1条が始まる。農業者が減少し高齢化が進んでいるのは、平たん地の大規模農業ではなく、中山間の狭小圃場を抱える地域であるはずだ。その意味で法律は十分に機能しているとは言えない。狭小農地にスマート農業をどう展開していくかを検討すべきだ。
エンジンを利用するより小型化できる電動モーター駆動のスマート農機、GNSS以外の位置情報システム、自動化機器とデータをやりとりする新たな通信方式などの開発課題もある。コスト面を含めた実効性を考えたい。
加えて機械の共有化や操作できる農作業受託組織の立ち上げなどソフト面からの検討も必要だ。同法が前提とする農業者の減少と高齢化が進展しているのは、狭い農地を抱える中山間地なのだから。