[論説]米を巡る日米関税交渉 主食守る強気の姿勢を
日本が年間77万トンを非関税で輸入する既存のミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)内で、米国向けの輸入枠を設定する案が持ち上がった。
トランプ政権は今回の交渉で日本の米に狙いを定める。米通商代表部(USTR)は「外国貿易障壁報告書」で、米など一部の品目で高関税が維持されていると指摘。MA米のうち、最大10万トンは主食向けの売買同時契約(SBS)米とし、業者が政府買い入れ価格にマークアップ(輸入差益)として上乗せして落札する仕組みで、米国産米の流通を妨げる「非関税障壁」として問題視する。
輸入枠の水準は、2016年の環太平洋連携協定(TPP)の合意内容を踏まえて設定される見方もあった。締結当時、MA米のうち中粒種・加工用に限定した6万トンをSBS枠とし、事実上の米国産向け特別枠を設けた。だが、第1次トランプ政権がTPPから離脱したことで特別枠は除外。20年に発効した日米貿易協定で、牛肉などの関税削減を受け入れた一方、米は除外されたままだった。
波紋を広げたのは、15日の財務省提言だ。米の不足感が強まる中、主食用米の輸入量を増やし、国内需給の調整弁とするよう求めた。MA米は主食向けのSBS米を除き、ほとんどを主食より安価な加工・飼料用として処理するため多額の売買差損が生じる。
政府が輸入米にかける年間の財政負担(23年度)は684億円に上り、SBS枠を増やせばマークアップによる国の収入が増え、財政負担を軽減できるとの算段がある。
だが、既存の枠に加えて新たにSBS米を増やせば、国内の米需給に影響を与え、しわ寄せは産地にいく。食料安全保障の強化に逆行し、到底、受け入れられない。
国内の米需給や適正生産量の判断材料となる農水省の「主食用米等の需給見通し」には輸入米は含まれていない。米需給は近年、わずかな変動で混乱を招いてきた。
輸入拡大で産地が需給均衡へ転作を強化するような事態となれば、1993年の「米のミニマムアクセス導入に伴う転作の強化は行わない」とした閣議了解に反する。江藤拓農相は「主食を海外に頼ることが国益なのか」と問う。
米の輸入枠を増やせば日本の農業は衰退する。交渉から米を除外するよう、政府は断固とした姿勢を貫くべきだ。