Aさんは5月中旬、有名なオークションのサイトで“出物”を見つけた。国内大手メーカー製で80馬力。最新モデルから2代前のもので、商品説明には使用時間が短いとあり、画像もきれいだった。Aさんは約425万円で落札。「良いものを買えた」と思った。
だがその後、出品者と連絡を取り合う中で①高額な取引なのに先方はオークションの運営会社が関与しない現金などでの支払いを指定②詳しい住所を教えない――など、いくつか不審な点が生じた。
そんな時、本紙5月22日付「北関東3県でトラクターの盗難が急増」の記事を目にした。「もしかして盗品なのでは」と疑念が湧いた。だがすでに納品日も決まっていた。念のため落札した機種の車台番号を記したプレート位置を農機メーカーに確認。番号を盗品か見極める手掛かりにしようと考えた。

Aさんは出品者に電話して、車台番号などを確かめようとしたが「分からない」の一辺倒。「盗品の可能性が非常に高い」と感じたAさんは、即座に取引を中止した。要求された43万円のキャンセル料は振り込み払いを拒まれ、仕方なく2人組に現金を渡した。出品者が「後日郵送する」と言った領収書はまだ届いていないという。
Aさんは、その日の内にトラックのナンバーにあった地域の警察に電話で一連の出来事を通報した。6月上旬には警察から再度連絡があり、再度詳しく事情を話したという。
Aさんは同じような目に遭う農家が出ないことや農機盗難が減ることを願い、匿名で取材に応じた。「農機を取られた農家の痛みは分かる。盗品だったのなら、早く犯人が捕まってほしい」と話す。
追手門学院大・相原延英准教授

Aさんが落札したトラクターが盗品と断言できない。だが、中古自動車の盗品売買での手法と似ている。業者によると中古農機は品薄で需要が高く、価格が上がっている。
農機は車台番号以外に個体を識別できるものが無い。だから車より高く売れる上に、足がつきにくいと犯罪者は考えるのかもしれない。車台番号が無いと整備に支障が出るため、はぎ取られているのはおかしい。
盗品を買ってしまわないように自衛するには、少しでも怪しい商品は買わないことだ。少しでも怪しいと感じたら、警察に相談する。一般的に一度盗品を買うと、犯罪者に目を付けられ次々と盗品を売り付けられる可能性もある。疑わしい商品には絶対に手を出してはいけない。
中古農機に限らず、トラブルを避けるには、きちんとした販売会社から買うことだ。伝票や契約書を出さない業者とは取引を避けたい。誰が相手でも怪しい点が無いかどうか、自身で判断することが重要になる。
農機盗難の抑止には、取り締まりはもちろん「盗品が出回っている可能性がある」と、中古品を買う側が意識することも大切だ。盗難事件の情報共有や、購入時に盗品か確認する重要性を、全国的に繰り返し発信する必要がある。