[論説]農業法人の社会的責任 経営理念こそ成長の源
調査は2021年11月から22年3月に行い、法人会員約1000人から回答を得た。売上高の伸びが3%以上という「経済的成果」を上げているか尋ねたところ、4割が「上げている」と回答した。
一方、雇用創出や資源の活用、農業の多面的機能の発揮など「社会的成果」も同時に実現しているのは、全体の1割強にとどまった。利益追求と社会的責任を両立している法人が少ないという課題が、浮き彫りとなった。
両立できた法人と、できなかった法人の差は何か。調査に当たった東京大学の木南章教授が指摘するのが、経営理念だ。「経営理念が明確で従業員もよく理解している」とした法人ほど、社会的成果を上げることによって経済的成果も生まれていると答える傾向が強かった。
経営理念を通して法人設立の目的や存在意義を共有できれば、従業員は結束し、働く意欲が高まる。取引先や消費者など社外からの信頼も得られ、経済的・社会的成果につながるということだろう。
ロシアのウクライナ侵攻などによって生産資材の高騰が続く中、農業経営は厳しさを増し、離農も増えている。とりわけ深刻な酪農は、1月時点の全国の酪農家戸数は1万1113戸と、前年同月より809戸(6・8%)も減った。いまだかつてない逆風の中で、いかに利益を上げ、持続可能な経営を実現するか。規模拡大や効率化だけではなく、ベースとなる経営理念に目を向けたい。
先進的な農業法人は、どんな経営理念を掲げているのか。「明るく、楽しく、真剣に」を掲げるのは紅梅夢ファーム(福島県南相馬市)。従業員の採用面接では、東日本大震災、東電福島第1原子力発電所事故からの農業再興への思いを必ず尋ねている。同じ志を持つ人材が集まり、職場に活気が生まれているという。
トマトの生産・加工・販売を手がけるドロップ(水戸市)は「関わる人を感動させられる企業」が理念。消費者に感動を届けたいと、商品の栄養成分や加工方法まで積極的に公開するなど、従業員が自ら考え動くようになった。
50年後の日本の人口は今の7割まで減る。国の研究機関は先月、こんな推計を公表した。人手不足は一層、深刻化する。選ばれる組織になるために、明確な経営理念を掲げ組織を活性化しよう。