[論説]出所者の社会復帰 更生のチャンス、農業で
国が進める農福連携の支援は、主に障害者を対象とした事例が多かった。障害者支援はもちろん重要だが、社会福祉を考える上では生活困窮者や引きこもりなど、社会から置き去りにされがちな人にも目を向けたい。特に刑務所や少年院などの矯正施設から出所してきた人は、更生したくても周囲の偏見にさらされ、生きづらさを抱えている場合が多い。
こうした中、農業で更生をサポートする事例が出てきた。愛媛県西条市の29歳の若手農家は、少年院から出所した21歳の青年に2019年から野菜栽培を教えている。青年は野菜作りに生きがいを感じ、「将来は農家として自立したい」と夢を抱くまでになった。この農家の下では鑑別所や刑務所から出所してきた人も作業している。農業で社会復帰できるだけでなく、労力不足に悩む農家にとっても頼もしい助っ人となる。
熊本県菊池市の農家も、刑務所や少年院から出所した人と宿根カスミソウやトルコギキョウを栽培する。将来は、キクラゲや菌床シイタケの生産・販売も視野に入れる。農作業を通して「汗を流すのが楽しい」と働く喜びを感じているという。
課題は、こうした民間レベルでの取り組みが少ないことだ。19年に策定された「農福連携等推進ビジョン」は農水省の他、厚生労働省や文部科学省、法務省が作成に関わった。ビジョンでは「矯正施設で農作業を実施している他、一部の保護観察所が社会復帰に向けた農業分野での取り組みを進めている」と言及する。だが、実際には矯正施設や保護観察所と農業関係者の連携は十分とは言えず、犯罪者の特性を踏まえた対応ができていない面もある。
出所者などを受け入れる場合は、農業と福祉の機関が連携し、双方にどんな課題があるのか、何が不安なのかをはっきりさせる必要があり、それが課題解決の一歩となる。
同時に、出所した人やその家族に対する偏見や差別を取り除かねばならない。仕事探しや入居などの面で社会から受け入れられなければ、再び罪を犯してしまう。元受刑者の2人に1人は再犯者であることが物語っている。
人生の再出発を目指す人を農業の現場で受け入れ、支えることが再犯率の低下につながる。農業を通し、新たな担い手を育成したい。