[論説]下落続く和子牛価格 畜産経営の支え強固に
「以前はせり市に行くのが楽しみだったが、今は怖くてたまらない」。10月、宮崎県の都城地域家畜市場では去勢子牛の平均値が50万円と、前年同期より約11万円も下げた。鹿児島県の肝属中央家畜市場でも雌子牛が同38万円台となり40万円を割り込んだ。子牛を出荷するだけ、赤字がかさむ状態が続いている。
ロシアによるウクライナ侵攻以来、飼料や燃料、光熱費などは軒並み上昇している。繁殖農家に加え、飼料代が経営コストの3割以上を占める肥育農家の経営も圧迫する。8月の配合飼料価格は1トン当たり9万5600円と高止まりが続く。枝肉の取引価格も低迷し、物価高に伴う買い控えで、子牛価格の低迷に拍車がかかっている。
JAは、つなぎ融資や返済時期の繰り延べなどで畜産経営を支えようとしているが、産地からは「枝肉や子牛の相場が全国的に急落した2001年のBSE(牛海綿状脳症)の時より、苦しい」という声も上がっている。
特に和子牛は、せりで価格が決まるため、飼料代などのコストを転嫁するのは難しい。農家の規模も多様で、かかったコストを一様に可視化することもできない。さらに繁殖農家は売上高1000万円以下の免税事業者の場合が多く、課税事業者にならない限りインボイス(適格請求書)を発行できない。まだ影響は限定的だが、入札価格を低く下げられてしまうのでは、という不安は根強い。
政府は、黒毛和種での肉用子牛生産者補給金制度を発動した。対象は7~9月に販売、自家保留された子牛。同期間に販売された子牛が対象となる和子牛生産者臨時経営支援事業の補填(ほてん)金と合わせ、1頭当たり4万~8万円が11月末~12月上旬に交付される見込みだ。新たな政府の経済対策の中にも、和牛肉の消費拡大に向けた緊急対策が盛り込まれる見通しで、生産から流通、販売までの一貫した支援は欠かせない。
畜産は、なぜ必要か。良質な肉を供給するだけでなく皮革などの副産物に加え、ふん尿は資源となり、耕種農業を支える。稲作から生まれるわらは、牛の体をつくる粗飼料や敷料となって循環する。畜産は耕畜連携の要となり、持続可能な農業、農村を守ることにつながる。繁殖、肥育を含め、牛飼いを続けていける中長期的な政策を求めたい。